2006年8月12日

[05]こどものこと(1)

21歳のときに会社の上司だった旦那と知り合った。違う部署だった旦那をチラッと見かけて、「かっこいいな。」って私が思ったのがきっかけ。たまたま私の同期の男の子が旦那の部署だったことから一緒に飲みに行くことになって、すぐに仲良くなった。

旦那には遠距離恋愛中の彼女がいた。そのときにもう7年も付き合っていて、結婚の話もでていたみたいだった。でも1ヶ月に1度会うか会わないかの彼女より、身近にいる私を取った彼はあっさりその彼女と別れた。きっと寂しかったんだと思う。彼は転勤で私のいる町に来ていた。友達もいなくて彼女もいない。一人暮らしのマンションはきれいにしていたけどガランとしていて生活感がなかった。

付き合って2ヶ月くらいして、彼に「結婚したい。」と言われた。まだ21歳の私。5歳年上の旦那は27歳の誕生日を目前にしていた。なんで急にそんなことを言い出したのかというと、彼の転勤が決まったから。私たちの交際が上司に知れて、それをあまりよく思わなかった上司の決定だった。転勤は絶対で、彼は地元に帰ることになった。もう遠距離恋愛は嫌だと旦那は言った。

しばらくは旦那のいるところに週に1回ほど通っていた。仕事が終わると走って新幹線に飛び乗った。早くこっちに来い、といつも言われた。でも迷っていた。私の父はとても厳しかったから一人暮らしなんてさせてくれるわけがない。彼ができても怖くて言ったこともなかった。私は父が大好きだった。父が悲しむところを見たくなかったのが一番の理由。

でも私もまだ若かったし、「彼氏」と離れて暮らすことがだんだん辛くなってきた。それに仕事もうまくいかなくなってきた。仕事でいじめにあっていて誰にもいえなかった。やめたいけど両親に心配かけたくない。ずっとそう思っていたけど、耐えられなくなっていたんだと思う。次に旦那のところに会いに行ったとき「私も結婚したい」そう言った。

「こどもが欲しいな。」そういう旦那の言葉に頷いていた。
その日の1回だった。
次の月、来るはずのものが来なかった。
「妊娠してる。あの日だ。」でも信じられなかった。

初めての産婦人科。怖くて怖くて涙が出そうだった。結婚していない私に先生は笑顔でもなく、かと言って冷たい顔でもなく静かに言った。「4週目に入っていますね。来週もう一度来てください。」目の前が真っ白になった。

彼に電話するとしばらく黙った後、低い声で「来週そっちに行くね。」と言った。どうしたらいいのかわからずに私はずっと泣いていた。「大丈夫だから。」なんども彼はそう言った。

とりあえずお母さんに言わなきゃ。話があるという私のただならぬ雰囲気に母は不安そうな顔をした。「結婚したい人がいるの。」そういった言葉にびっくりした様子だったが、その後の私の言葉に顔が引きつった。「おなかに赤ちゃんがいるの。」

母は深く息を吐くと目を瞑った。「困ったねえ。なんでいつもお母さんを困らせるの?」力なく母はそう言った。

ごめんなさい。ごめんなさい。私は何度も小さい声で呟いた。涙が止まらなかった。おなかに命が宿っているなんて想像もつかなかった。

柊 彩花

こうして生まれる―受胎から誕生まで
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