前回ジェネリック医薬品の普及が進まない理由の1をお話しました。今日は薬を処方する側(医師、薬剤師、病院)とジェネリック医薬品の関係についての例を一つご紹介したいと思います。

最近、大きな病院で診療を受けたことがある方はすでにお気づきかと思いますが、「電子カルテ」なるものが2000年代になって急速に普及しています。以前は紙のカルテに診察した内容を医師が書き込んでいた訳ですが、最近では紙のカルテに書かず、パソコンから直接入力する人も増えてきました。

紙のカルテは一定期間保存後破棄されてしまいますが、電子カルテは長期で保存が可能です。また他院に転院するようなときもデータをそのまま送ることができるので便利です。最近ではX線、超音波診断、あるいはCTの結果など、昔はフィルムで保存されていた内容も電子的に電子カルテに貼り付けて保存できるようになりました。しかも画像はズームしたり、回転させたりして細部をチェックすることも可能です。便利な世の中です。

前置きが長くなりましたが、電子カルテの普及は薬の処方にも大きな影響力を持っています。と言うのも、これまで医師は薬の処方をする際、自分の記憶の中にある薬しか処方できませんでした。この病気の時はこの薬を、大人だったら一日何mgまでOK、食後に服用等々全部覚えていたわけです。ですがどんなに優秀な医師でも、日本で使われているすべての薬とその用法はとても覚えられません。必然的に覚えている薬というのは、よく耳にする薬、目にする名前が多くなりがちです。製薬会社のMRと呼ばれる営業マンが、医師を頻繁に訪れては、「ウチの○○はよく効きます」と言って薬の名前の入ったペンやファイルなどを置いておけば、結構効果があったものと思われます。

ジェネリック医薬品というのは前にも述べたように、特許が切れた後に出てきたコピー商品なので、名前もオリジナルの薬に似ていて、実に紛らわしいものが多いのが現状です。しかも一つの薬に対するジェネリック医薬品は1つとは限らず、多いときは5-10種類くらいいろいろなメーカーから出ています。またさらにややこしいのは、薬によっては同じ薬なのに、同じ治療の目的に使えないことがあることです。

薬には、その薬を使ってもよい治療の内容(適用)が薬ごとに定められています。新薬として最初に薬が世に出てから、次第に適用が増えるのが一般的なのですが、ジェネリック医薬品では新薬の適用拡大に追いつかないことがあるのです。つまり新薬では認められている適用が、同じ薬のジェネリック医薬品ではないことがあるのです。しかも適応があるなしは、ジェネリックメーカーごとに違うので、さらに厄介です。

紙のカルテを使っていた時代には、ある薬に対してどんなジェネリック医薬品があるのか、またそれぞれの適用はどうか、よほど熱心にジェネリック医薬品を研究している医師以外わからなかったと思います。ですが電子カルテでは、使いたい薬の名前やキーワードを入れると、瞬時にその用法はおろか、新薬メーカーのブランド名(例えばバイエルアスピリン)、一般名(アスピリンの場合はブランド名=一般名)、化学名(アスピリンの場合はアセチルサリチル酸)、価格、これに対応するジェネリック医薬品の詳細が出てくるようになっています。

これが大学病院になると、病院で推奨しているジェネリック医薬品がどれか、また在庫状況がどうなっているかまで手に取るようにわかるのです。ですから患者にジェネリックを検討したいと言われても、「そんなの良く知りません」ではなく、「それでは○○か、××はどうでしょう?××は院内でも近くの調剤薬局でも手に入りますよ。これを使うと一ヶ月でいくらくらい安くなります」と、答えられるわけです。また電子カルテのそうした薬の情報は定期的にアップデートされるので、適用にタイムラグのある薬でも安心して処方できると言うわけです。

ジェネリック医薬品の営業マンが医師を訪れる回数は新薬より少なく、以前はジェネリック医薬品の名前すら知られることがなかったケースが多かったと思います。ですが電子カルテの普及により、ジェネリック医薬品は医師の間で急速に知られつつあると言えます。

さて、突然ですが「たまごや」さんのサイトでこのテーマの記事を書くことは今回で最後となりました。1月からの短い間ではありましたが、「たまごや」さんをはじめ皆様には大変お世話になりました。私自身、記事を書くことでこのテーマについて知らないこと、わからないことがたくさんあることがわかり、もっといろいろ知りたいという気持ちが強くなりました。今後は別のサイトにて継続していくことになりましたので、ご興味のある方は是非ご訪問下さい。
http://cuijia.blog129.fc2.com/

本当にどうもありがとうございました。

城戸 佳織

【関連記事】
[009]ジェネリック医薬品-ジェネリックの普及はなぜ進まないか その1-

前回、日本政府は医療費を削減しようとジェネリック医薬品をもっと普及させようとしているとお話しました。そもそもなぜ日本ではジェネリックの普及が進まないのでしょうか?それには下記のような要因があると思われます。

1.健康保険制度と被保険者の意識の問題
2.薬価や政府の規制の問題
3.薬を処方する側(医師、薬剤師、病院)の問題
4.流通、在庫管理などの問題
5.ジェネリック製造会社側の問題

それでは1の問題からお話ししましょう。
日本の健康保険制度では、被保険者である患者が医療費の一部のみを負担することになっています。老人と子供(一部の自治体で実施)を除く一般の被保険者は、基本医療費の3割のみの負担ですみます。70歳以上の高齢者にいたっては、1973年から2002年までは負担分はゼロ、2008年からは1割、2010年度からは2割で、さらに課税所得が145万円以上の高齢者には3割の負担を求めるように最近改正されました。

実際問題、医療保険を一番使うのは高齢者です。ですが日本の健康保険制度では、一番医療費を使う高齢者は長らく患者の負担分がゼロでした。医療費は、医療機関が保険組合に請求するしくみですので、患者は自分が全部で医療費としていくら使ったのかわかりにくい構造になっています。これが例えば、一度自分で全額支払って、後から還付を受けるシステムであればコスト意識は全く違うものになっていたでしょう。

一般患者の場合も同じで、医療費の7割は医療機関が保険組合に請求するわけですから、現在でも実感としてどのくらいの医療費をつかったのかわかりにくい構造には変わりありません。加えて現在のシステムでは、医療機関が多少の水増し請求をしたとしても、ふところがあまり痛まない被保険者は明細をチェックせず、気づきにくいかもしれません。

日本では伝統的に医療現場で医師の発言力が強く、年配者ほど医師がどんな診断を下したのか、どんな処方をしたのか、質問したり意見を求めたりしません。「医師の診断に意見をするなんてとんでもない」という発想でしょう。この医師に言われるがままのシステムも、患者本人による医療費のチェック機能をマヒさせる一因です。

医療経済学では、「モラルハザード」(Moral Hazard)という言葉があります。これは被保険者が、保険があるために必要以上のサービスを求めてしまい、結果として医療費の高騰を招くという現象です。

例えばあなたが風邪をひき、医師の診察を受けたとします。医師は、「すでに治りがけなので、ジェネリックの1錠15円の解熱剤を2日分出します。あとは十分休養すれば治りますよ」と、言ったとします。あなたは納得しますか?少しでも良い薬(=普通の人は高くて新しい薬と思い込んでいる)を処方して欲しいと思いませんか?「ジェネリックではなく、新薬で1錠100円のものを1週間分下さい」と、言う人もいるかも知れませんし、「どうしてインフルエンザのテストをしないのですか?」と、検査を求める人もいるかも知れません。使いもしないのに、うがい薬その他の薬を要求したりしないでしょうか?

皆保険下で、かつ出来高制の医療報酬システムでは、どうしても必要以上に高いサービスになりがちです。日本の保険制度では、モラルハザードをチェックする機能がありません。患者だけでなく、医師や病院が利益率の高い薬を故意に長期間分処方したり、必要のない検査をするといったモラルハザードも起こりえます。特にそれが全額保険から医療費が還付される高齢者の医療ではなおさらでした。

ジェネリック医薬品は以前からあったのですが、日本では患者、医療従事者の両方で選択してこなかったと言えます。ですが現在の健康保険組合はどこも破綻寸前、これから益々高齢化が進む中、医療費の削減と保険制度の見直しは民主党でなくとも避けては通れない課題なのです。

城戸 佳織

【関連記事】
[007]ジェネリック医薬品-そのはじまり-

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