[002]アメリカの医療制度は最高?

日本は何かというとすぐアメリカの真似をしたがるのですが、医療に関しても全く同じです。日本の政治家も官僚もなぜかアメリカの制度は一番良いと信じて疑わないのですが、実際問題アメリカの医療制度に詳しい人ほど実は良くは言わないのです。

マイケル・ムーア監督の映画で「シッコ(SICKO)」という映画が数年前に公開されました。私はなかなか良くできた映画だと思ったのですが、日本での評判は今ひとつでした。医療問題に興味のある人はぜひDVDでも借りてみて欲しい作品です。

この作品で訴えているのはまさにオバマ大統領の選挙公約にあった、公的医療界保険制度の整備の必要性なのです。アメリカでは実に国民の6人に1人が無保険。アメリカの自己破産者の多くが、高額な医療費の支払いに困って借金を重ねた挙句の自己破産。日本でも健康保険料を払えないワーキングプアが問題になっていますが、アメリカではずいぶん昔から問題になっています。

日本では保険料を払わないと督促状が来て、支払いの必要性を教えてくれますが、アメリカでは基本健康保険は民間が運営しているため、払わなければそのままです。しかも民間の医療保険は一般的に保険料が高い。アメリカには政府が運営するメディケア(老人医療保険)、メディケイド(低所得者向け医療保険)などがありますが、これらはこの2つは徹底的にコストを省いた運営になっています。例えば薬はジェネリック薬品しか使えないなど制限があります。そして低所得者向けの保険があることは、なぜかそれを必要とする低所得層の多くが知りません。それにメディケイドは加入するとしても、日本の生活保護よろしく貯蓄などがあればすべて差し出さなくてはなりませんし、支払いが渋いので有名なため、普通の医者はメディケイドの患者を治療したがらず、加入していてもあまり意味がなかったりします。

民間の保険にはピンからキリまでありますが、安い保険にはかなりの制約があり、全く実用的ではないのです。例えば注射は保険でカバーされないとか、指定された病院でしか受診できないとか(疾患毎指定される病院が違ったり、家からずっと離れたところにある病院にしか行けないなど)、血液検査は有料、薬は一定金額以下のものしか使えない等々。ことアメリカの民間の医療保険では保険が適用されるサービスにたくさんの制限があるのが普通で、日本のようにいつでもどこでも好きな病院で受診し、どの病院でも同等のサービスを受けることはできません。日本と同様にどこでも受診できて、サービスに制限のかからない医療保険となると、これが恐ろしく高くなるのです。

例を挙げると、私の友人の元プログラマー(独身)は昔ボストンで会社勤めをしていました。当時年間150,000USDくらいを稼いでいましたが、毎月の医療保険料は800USDくらいだったとのこと。これでも会社から補助が出ていたというので驚きです。失業して一番困ったことは、この月々の医療保険が払えなくなったことです。これで家族がいれば家族の分も含め、年間20,000USDくらい払っているのはアメリカでは普通でしょう。失業して一番困るのは医療保険が払えなくなることで、そういうときに限って病気になったり、事故にあったりするものですよね。

前述の映画の中で、指を誤って切断した人が、中指はいくら、薬指はいくらと見積を病院からもらい、「ロマンチックな彼は薬指をつけてもらうことにした」とムーア監督のナレーションが入るくだりがあります。お金を払えないばっかりに、手術すれば元通りになるはずの指をあきらめなくてはならないなんて、絶対おかしいでしょう。

一方で、世界最高の医療サービスもアメリカは提供しています。ですがその最高のサービスにアクセスできるのはほんの一部の人たちです。最高のサービスをすべての人に提供すれば医療費は増大するばかりです。ではもっと多くの人に、そこそこの医療を提供することで妥協してもらうことは可能でしょうか?今まで最高のサービスを受けていた人に、治療費を下げる代わりに適当にランクを落としたサービスで納得するよう、説得できるでしょうか?サービスのランクを落とすことによって浮いたお金で、他の貧しい人たちの医療サービスを充実させるという案は富裕層に受け入れられるでしょうか?それより公的皆保険ができたら民間の保険会社はどうなるのでしょうか?製薬会社だって黙っていないでしょう。自由経済を謳歌しているアメリカで、公的皆保険を導入するのは簡単な事ではないでしょう。

現実問題、公的皆保険はヒラリー・クリントン氏がクリントン大統領時代に導入をしようとしましたが失敗していますし、現在再び皆保険制度がアメリカの議会で審議されていますが、公約とはかなり違う内容になりそうです。

これが日本の政府や官僚があこがれてやまないアメリカの医療制度の現実なのです。日本の政治家や官僚の中には、アメリカに留学や赴任をした経験がある人も多いでしょう。でも自腹で医療保険料を払った経験のある人はおそらくいないでしょう。逆に高額な医療保険を使って、価格的にも技術的にも最高のサービスだけを経験したことのある人がほとんどでしょう。もちろん、こうしたハイエンドのサービスだけを見ればアメリカの医療制度は最高ですが、この最高のサービスは多くの貧しい人たちの犠牲の上に成り立っているとも言えます。日本としてこれからどのような方向に進むべきか、アメリカ以外の医療制度もよく研究する必要があるのではないでしょうか。

城戸 佳織


シッコ / マイケル・ムーア

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