[003]日本の健康保険制度を知っていますか?その1

私は以前、カナダの大学院で医療経済学を少し勉強したことがあります。その時各国の医療制度の比較をしようとしたのですが、そもそも日本の医療制度についてよく知らないことに気づきました。私も留学前はごく普通のサラリーマン(ウーマン?)で、しかも給料明細に記載されている社会保険料が一体どういう根拠で毎月天引きされているのか、そのお金がどのような仕組みで医療費に使われているのか、全く気にも留めていなかったからです。情けないことに、気にしていたのは毎月の手取りの金額だけという状態でした。

留学から戻ってしばらく会社勤めをし、個人事業主になりました。それまでの会社の任意保険から国民健康保険に切り替える時、年収はほぼ同じなのに、保険料のあまりの違いに愕然としました。なぜそんなに違うのか、調べているうちにいろいろと面白い事実に行き当たりました。そこでこれから何回かに分けて、日本の健康保険制度についてお話したいと思います。

健康保険には会社員が加入する被雇用者保険(職域保険)と、自営業者などが加入する国民健康保険(地域保険)の2つに大きく分けることができます。さらに被用者保険には公務員などが加入する共済組合保険などがあります。

会社勤めをしている人は、通常会社が加入している健康保険組合に加入しています。日本の場合、基本的には大会社なら会社ごと(例えばトヨタ自動車、NTT、みずほ銀行等は会社が運営する健康保険組合があります)、それ以外は業種ごとの健康保険組合(東京金属事業健康保険組合、東京薬業健康保険組合、関東ITソフトウエア健康保険組合など)に加入しています。皆さんはこうした健康保険の掛け金(プレミアム)がどのように決められているかご存知でしょうか?

基本的に保険の掛け金は、リスクの高い人はより高く、低い人はより安くなるのが基本です。例えば民間の医療保険の場合、一般的に病気にかかりやすい高齢者ほど掛け金が高くなりますし、女性に比べ男性の掛け金が高くなります。糖尿病や心臓病などの慢性疾患のある方は保険の加入を断られることもありますし、事故に遭う確立の高い職業の人も同様です。

ところが公的保険の場合、この原則をそのまま当てはめることができないのです。リスクの高い人、例えば乳幼児、高齢者は一般的に収入がないか少なく、このグループに属する人たちからより高い保険料を徴収するわけにはいきません。このグループに関しては、どう考えても実際に払う保険料から使った医療費を引くとマイナスになります。逆に若くて健康な20-40代の働きざかりの年代の加入者は、一般的に払う保険料が使う医療費より多くなり、この差額分が全体として保険組合の保険料のマイナス分を補う形になります。従い公的保険に関しては、自由経済の原則をそのまま当てはめることができません。

日本では保険料も税金と同じく年収に応じて増減しますが、同じ年収ならどこの保険組合に属していても掛け金は同じでしょうか?答えはNoです。前述の保険の原則によると、リスクの高い人は高い保険料を払う必要があります。個人個人のリスクもさることながら保険組合では組合員全体のリスクも考えて保険料の設定をしなくてはなりません。もっと簡単に言えば、一般的に加入者の平均年齢が高い組合は低い組合よりリスクが高いため、保険料を高く設定しなくてはいけないのです。

いくつかの例を挙げると、比較的保険組合の構成員の年齢が高いと思われる(?)東京金属企業保険組合の被雇用者の負担率は基準月額報酬の40/1000、東京薬業健康保険組合は37.5/1000、比較的構成年齢が若いと思われる関東ITソフトウエア健康保険組合の場合は32/1000。一般的にこれらの健康保険組合では、事業主(会社)と被雇用者(会社員)が保険料を折半(つまり半分ずつ組合に支払う)のが普通で、上記の場合であれば保険組合は、東京金属80/1000、東京薬業75/1000、関東IT 64/1000に基準となる月額報酬を掛けたものを事業主から実際には受け取っています。

ところがトヨタ自動車健康保険組合のホームページを見ると、事業主と被雇用者の保険料負担率がおおよそ2:1(事業主42.5/1000、被雇用者19.5/1000)になっており、会社が他の保険組合より多く保険料を負担していることがわかります。加入する組合によってルールも金額も違うということなのです。(各組合の保険料率は平成21年現在のものです)

日本の良い点は、加入する保険組合がどこであれ、原則全国どこの病院に行っても制限なく治療が受けられますし、医療費の自己負担率も基本的には同じです。被雇用者保険は、どの組合に属していても掛け金に大きな違いはなく、国民健康保険に比べるとかなり公平なシステムになっていますし、国民健康保険と違って扶養家族もこの保険も同じ金額でOKなのが良いところでしょうか。

これから転職を考えている人で、できるだけ健康保険料を安く抑えたい人は、会社が加盟する保険組合の構成年齢が若い会社を狙って就職するのが有利かもしれません。また自営業者で会社の拡大のため社会保険の加入を考えている方は、できるだけ負担率の少ない保険組合をあえて選ぶということもできるかもしれませんね。

次回はちょっと驚きの国民健康保険についてお話したいと思います。

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