[40]認知症シリーズ(5)尿失禁

認知症シリーズも長くなりつつある。今回は尿失禁について語りたいと思う。
尿失禁は認知症高齢者に直面する上で絶対に避けて通る事はできないだろう。高齢者介護そのものが身も蓋も無い言い方をすれば「下の世話」を中心に回っているといっても過言ではない。

認知症とはあまり関係ないが、尿失禁を語る前に基本的な認識を確認しておかなければならない。多くの人は尿失禁を尿失敗を同じものだと混同している。だが、尿失禁と尿失敗も同じように結局は周りの介護職員が後始末をしなければならないのは同じだが、そのプロセスは全く違う。そしてその対策も尿失禁と尿失敗では全く違う。

*尿失敗*

尿失敗とは尿意があって排尿をしたいが、何らかの原因で正しく処理できない為に尿を漏らしてしまうことだ。例えば尿意があってもトイレの場所がわからなかったり、または手が上手く動かないためにズボンを下ろせなかったりして手間取り、我慢できずにその場でもらしてしまうことなどが尿失敗の例だ。介護書の中にはこのような事例を障害や認知症により排泄動作が適切にできない「機能性尿失禁」と名づけているのもあるが、そもそも「尿失禁」のカテゴリーに入れること自体不適切だ。

*尿失禁*

尿意を知覚できるのが尿失敗なら、尿失禁は尿意を知覚できないのが原因である。尿意の知覚ができたり、できなかったり曖昧な場合もあるが酷いと完全に尿意の感覚が無くなっている事もある。健常者は尿意を感じても普通は膀胱括約筋を閉めて失禁を防いでいる。そして適切なところで膀胱括約筋を緩めて尿を排出するのだ。認知症になると脳の機能が衰えるために膀胱括約筋のコントロールができずに失禁するようになるのだ。尿失禁の種類にはいろいろある。

(1)腹圧性尿失禁
女性に多い。咳やくしゃみなどで腹部に力を入れるともらすことがある。

(2)反射性尿失禁
脊椎損傷者に多い。本人の意図に関係なく反射的に尿が出る。

(3)溢流性(横溢性)尿失禁
貯まった尿がだらだら溢れてくる。前立腺肥大などで膀胱が完全に閉じられない(尿閉)のために起こる。

(4)切迫性尿失禁
尿意を感じても膀胱のコントロールができないために尿が出てしまうこと。

この中で一番多いのは(4)切迫性尿失禁だろう。「尿意を感じても・・・」と書いているが、殆どのケースでは健常者に比べると尿意の感知が遅い。高齢者の場合、膀胱には300ccの尿を貯めることができる。200ccを超えると尿意を感じるのだが、尿失禁をする人はその感知が明らかに遅い。そして認知症が進めば全く尿意を感じなくなってしまうのだ。

多くの施設や病院、研究機関が尿失禁に関していろんなアプローチを試みて、解消しようとしている。しかし、現在根本的な解決法は何一つ編み出されていない。排尿の周期にあわせてトイレ誘導をする方法をよく提案されている。実を言うと俺がかつて勤めていた施設で1時間ごとに排尿の有無を調べるチャートを取った事がある。

しかし、結果は何の成果も無かった。それどころか失敗だった。利用者の精神不安定まで招いてしまったのだ。よく考えれば当たり前のことだが、排尿があるかどうかを1時間ごとに調べられるなんて、利用者からしたらストレス以外の何物でもない。その上、調べた結果にしても何の意味も無かった。排尿の周期が不定期でルーチン化できるほどではなかったのだ。わかったのは2,3時間ごとに1,2回排尿があるけど、時には4時間ぐらいないときもある。しかし、これではかなり漠然としていて、対策など立てようが無い。

自分たちの排泄について考えればわかるだろうが、排泄のパターンなんてその日の状況によってかなり左右される。健常者なら起き抜けの排泄は確定的だろうが、失禁のある人は起床するまで尿を膀胱に貯蔵できない。貯まったら勝手に排出されてしまうのだ。1時間ごとに排尿の有無を調べるのは結論から言うと無意味としか言いようがない。

このようにいつ排泄があるかどうかを調べるのはかなり困難だし、ましてやその調べる意義そのものに疑問がある。結局尿失禁を止められるのは本人の感覚しかない。認知症によって尿意の感知が障害されている限り、尿失禁を止めることは難しいと言わざるを得ない。

認知症シリーズはこれで一時中断したい。次からは別のカテゴリーの問題を提起したい。時期を改めて再び認知症シリーズを再開しよう。

エル・ドマドール


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