[74]知的障害者(上)

このメールマガジンはいろんな人に読まれているが、一般の人が「福祉」を実感するのは電車やバスで知的障害者と出合った時が多いかもしれない。普通の人とは違う彼らの振る舞いに恐怖感や違和感を感じていても、気にしない振りをしている人も多いだろう。今まで長い間連載をしてきたが、不思議とこのテーマは触れたことが無い。別にタブー視しているわけではないし、一応知的障害者施設に勤務した経験もある。そこで今回は知的障害について語ろう。

まず最初に語っておきたい。何度強調しても足りないが、知的障害の分野には他の福祉分野よりもタブーや禁忌がまとわりつく。老人福祉、身体障害者、視覚障害者、ろうあと違いなぜか知的障害にはタブーが多い。同じ事は精神障害者にもいえる。メンタルが絡むとタブーが増えるようだ。知的障害は社会の人々には知られたくない事が多い。これからはその事を念頭において読んで欲しい。

(1)定義

意外な話だが、実を言うと知的障害者について明確で客観的な基準を定めた法令はない。知的障害者を保護する法律としては「知的障害者福祉法(旧・精神薄弱者福祉法)」があるが、そこにも定められていないのだ。

一応の基準としてはIQ80以下が一つの目安と言われている。18歳以下で明らかな知能の発達に遅れが見られ、読み書きや計算などの知的能力に明らかな障害が見られる場合を知的障害と定めている。つまり乱暴な言い方をすれば他の児童よりも言葉を話すのが遅かったり、奇異な行動をすれば知的障害と疑われるということだ。本当に知的障害者の人権保護を目指すのであれば明確な基準を設けるべきではないだろうか?

俺がこんな疑問を突きつけると、こんな反論をする人がいる。「明確な基準を設けたらボーダーライン上(IQ80前後の軽度の人々を指す)にいる人の中には福祉サービスを受けられない人も出るかもしれない。できるだけ多くの軽度知的障害を持つ人が福祉サービスを受けられるように基準を曖昧にしているんだ」

だがこんな戯言はいい加減聞き飽きた。ボーダーライン上の軽度知的障害者を助けるために敢えて基準を曖昧にしていると言うなら、現在福祉制度から取り残されている軽度知的障害者の存在はどう説明するのか?IQ80以下の人々は統計によると日本国内に300万人存在するらしい。しかし、実際知的障害者として認定を受けているのはわずか推定40万人ほどしかいない。残りの260万人の知的障害者はどこに行ったのか?どこにも行っていない。世間体や社会的偏見のために敢えて周囲の人々が申請を行っていないケースが多い。福祉のセーフティーネットから取り残された彼らは社会生活に適合できずに苦しみ、中には施設ではなく刑務所に入所している人々もいるのだ。

俺はこの実態と知的障害の定義がない事は決して無関係ではないと考えている。知的障害者の定義が明確でなければ知的障害者の存在を無視できるではないか。自分の家族や親戚、関係者に知的障害者がいても、明確な定義が無ければ世間体の為に彼らの存在を抹殺する事ができる。定義の問題を解決できない限り、現在の知的障害者福祉法は知的障害者を救う法律とは到底言えない。知的障害者の業界関係者も家族も、あれだけ口やかましい保護団体も誰もこの問題を取り上げようとはしない。それは彼らが本気で知的障害者を保護しようとしていないと非難されても仕方ないだろう。そうではないと言うなら一刻も早く、知的障害の定義を明確にすることだ。これは緊急の課題なのだ。

(2)知的障害の種類

知的障害者には主に4通りのパターンがある。それらは「精神発達遅滞」「自閉症」「ダウン症」「脳性麻痺」である。俺の経験でこれ以外の知的障害者は見た事はない。それぞれについて簡単に説明しよう。

「精神発達遅滞」

今は差別語だがいわゆる「知恵遅れ」と呼ばれる人々がそれに相当する。子供の時から平均的な児童よりも言葉をあまり話せないとか、絵が上手くかけないなど様々な範囲で差が出てくる。比較的レベルの高いIQ70台ぐらいの子供だとあまり差が出ないが、それでも小学校教育を受ける頃にはその差が歴然としてくる。知的発達が遅れており、脳機能の障害が考えられるがその原因はよく分かっていない。よく貧困や虐待のために十分な教育が受けられず、字が読めないなどの未就学者などと混同されるが本質的には全く違う。未就学者は大人になってもきちんと教育の機会があれば学力は伸びるが、精神発達遅滞者はいくら教育の機会を与えても健常者レベルまでは知的能力の成長が見込めない。それが知的障害なのだ。

「自閉症」

先天的な脳機能障害で、これも原因はわかっていない。うつ病や内向的な人を自閉症と揶揄することがあるが、まったく本質的に違う。自閉症を解り易く言えば、「他人との意思疎通がうまできない人々」といえる。全ての自閉症者が言葉は話せない訳ではない。しかし、その言葉を使って話し掛けたり、聞いて反応する事が難しいのだ。障害の為に他人とのコミュニケーションが上手く行かず、よくトラブルや誤解を招きやすいところがある。知的能力も低下している事が多いため、知的障害者のカテゴリーに含まれているが、ごくまれに健常者以上にIQが高い人もいて「アスペルガー症候群」と呼ばれる事がある。映画「レインマン」に出てくるダスティン・ホフマン演じる自閉症者がまさしくそれに該当する。自閉症についてはまだまだ語りきれないところがある。詳しくはまたの機会を設けよう。

「ダウン症」

23対の染色体のうち、21番目だけが3本存在する(トリソミ~)ことから発症する遺伝性疾患。原因は高齢出産だと言われているが、正確には違う。実際にはレントゲンなどによる放射能被曝量が影響する。顔立ちに特徴があり、慣れてくると一見でダウン症の見分けが出来るようになる。高い確率で内臓に重篤な疾患(心臓、肝臓、白血病など)を抱えている。知的障害を高確率で持つが全てのダウン症者が知的障害を持つわけではない。正確は陽気だが頑固な傾向が強い。コミュニケーション能力は比較的良好なため安定した社会生活が送りやすい。

「脳性麻痺」

脳性麻痺とは受精から生後4週間以内に脳の損傷の為に運動機能に重大な障害が残る症候群である。脳性麻痺は主に身体障害と考えられるが、中には知的障害を併発する人もいる。脳性麻痺とってもその障害は様々で、身体障害だけの人もいれば、知的障害と身体障害を併発している人もいる。

今回は知的障害をテーマにしたが、かなり長くなってしまった。続きはまた来週を楽しみにして欲しい。

エル・ドマドール

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