[121]プリズンブレイク(1)

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先日面白い記事を毎日新聞で見つけた。福島県にある特別養護老人ホームで女性利用者が無断外出して、そのまま行方不明になったのだ。毎日新聞の記事を引用したい。

「女性入所者が失踪(しっそう)したのは施設側の管理と注意の不足などとして、家族らが伊達市月舘町御代田の特別養護老人ホーム「星風苑」を運営する社会福祉法人「慈仁会」(星野俊一代表理事)を相手取り、2900万円の損害賠償を求め、福島地裁に提訴した。訴状によると、女性は07年5月19日午後1時40分ごろ、同ホームの正面玄関を出たまま行方不明になった。認知症で徘徊(はいかい)や無断外出を繰り返していたのに、施設側が外出防止の装置を設置せず、行動も注意しなかったのが原因という。星野代表理事は「反論は差し控えたい」とのコメントを出した」(2010年1月26日)

この記事を読んだ後、俺はすぐに迷いなくテーマを某有名テレビドラマから拝借した。不謹慎なようだがこのテーマほど今回の議論にふさわしいものはない。施設から無断で脱獄・・・もとい外出しようとする利用者は実に多い。どの施設も年に2,3回は無断外出騒動が起こる。無断外出した利用者が無事に帰ってくるなら最初から騒動にならないが、脱走したがるのは大抵は判断力や記憶力に重大な問題がある認知症老人だ。勿論そのままでは帰って来られないから脱走が判ると施設中が蜂の巣を突いたような騒ぎになる。職員総出で1,2時間捜索しても見つからない場合は恥を忍んで警察に通報するわけだ。

大抵は半日かせいぜい24時間ぐらいで無事発見されて一件落着となる。老人の場合は行動力もたかが知れているから短時間で見つかりやすいが、行動力が健常者と変わらない知的障害者の場合は大変だ。なまじ知能が高く外見も健常者と変わらない知的障害者の場合は1ヶ月近く帰って来ないケースもある。そして最悪の場合、上の記事にあったようにそのまま帰って来ないケースもあり得るわけだ。当然察しの通り帰って来ないと言うのは利用者が死亡した以外考えられないだろう。

実を言うと利用者が無断外出して二度と帰って来ないケースは今まで無い訳ではない。俺が知っているだけでも数件聞いたことがある。利用者が施設から無断外出して行方不明になった・・・となればテレビや新聞で報道されるはずだと思うだろうが、なぜかどのメディアもその類の話は取り上げたがらない。上の毎日新聞の記事もなぜか全国版ではなく地方版でしか見られない。俺はここに福祉に対する社会の本音が見えるような気がしてならない。

施設をはじめ福祉業界は自分たちの過ちや恥部は知られたくない。マスコミも福祉団体や世論を刺激したくないのかそれとも報道価値がないと見なしているのか。家族も本人の安否よりも世間体が大事なのかそれとも障害を持つ人間は家族の中からいない方が都合がいいと見なしているのだろうか?判っているのは行方不明になった利用者を本気で心配する人間など誰もいないことだ。障害者や高齢者に優しい社会これからは福祉の時代と美辞麗句をのたまっても、いざとなれば行方不明になった利用者は簡単に見捨てられるのだ。

社会がタブー視する背景がある中で、このような事件が新聞記事を飾るのはかなり珍しい。しかも家族が施設を訴える事件は初めて聞いた。俺は訴えたこの家族に敬意を表したい。愛する家族を行方不明にされたら誰でも怒りに震えるだろうが、今まで裁判に実際に訴えるまでは行かなかった。敢えて困難を背負い裁判に訴えた勇気は評価されるべきだ。

この裁判がどうなるかはまだ判らないが、介護施設ではこのような「プリズンブレイク」が珍しくない。しかも何度も同じ事が起きている。介護職員の中には仕方がないと思っている人は少なくない。だが本当にこれらの事故は「仕方がない」で済むのだろうか?次回はその点を検証してみよう。

エル・ドマドール

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[120]杖

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普段の日常生活でも杖を使う人々を見ることはそう珍しくないだろう。多くの自治体が65歳以上の高齢者に杖を一度に限り無料で配布しているためか、街中でも杖を使う高齢者を見ることは多い。しかし、与えられた杖を正しく使いこなしている人は案外少ない。俺が街中で見る高齢者でもはっきり言って杖を使いこなせているのは2割か1割くらいがいいところだ。自治体も配布の際は「歩くのが不自由で杖が必要な方」と限定しているはずだが、使いこなせるかどうかは全くチェックしていないようだ。正直言うとあんないい加減な配布は中止するべきだと俺は主張したい。あの杖の無料配布は当たり前だが税金を使っているのだ。ろくに必要かそうでないか調べずに配布するのは業者を喜ばせるだけだ。

ここで言っておくが、杖を正しく使用するのは意外と難しい。「杖ぐらい誰でも使えるだろう?」と思う人が多いかもしれないがそれは偏見だ。まず持っている杖が適切な長さでない人もいる。杖は人によって適切な長さが違う。杖を持って垂直に地面に立てた時に少し肘が曲がるぐらいがちょうどいい長さだ。そして状況によって使用する杖は選ばなければならない。特にリハビリや屋内で使う4点杖や3点杖は屋外では使ってはならない。なぜなら溝や穴に支点がはまりこんで思わぬ転倒や事故につながりかねないからだ。 また長さが変えられるタイプの杖もあるが、それもできれば避けた方がいい。なぜなら長さが変えられない杖よりも耐久性が劣るため壊れやすいためだ。腰椎圧迫骨折などで円背が進んだ場合を除き人間高齢になって大幅に体格が変わることなどないはずだ。

杖の選び方一つにしても簡単ではないが、問題は使う人だ。リハビリなどできちんと杖の使い方を教えられている人もいるが、無料配布された場合はきちんと使いこなせていない人が多い。そもそもその中には杖を使う必要性のない人もいる。よく観察してみると、杖をもっていても全く体重をかけていない人もいる。特に先端についているゴムキャップを2年間ぐらい全く交換していない場合は杖は不要だ。杖をきちんと使えば先端のゴムキャップは自然に摩耗するからだ。

「転ばぬ先の杖」とはよく言うが、はっきり言って杖に転倒予防効果はない。杖を持っていようが持っていなかろうが転倒の確率に関係ないし、怪我の予防効果もない。それどころか駅や電車、街中では他の通行人の足や荷物に当たったり逆に危険を呼び込むことが少なくない。

口論になった時に杖を振り上げる人がいるが、そんな真似が出来るなら杖は不要だ。単なる凶器になるので取り上げるべきだ。杖を振り上げたり、叩こうとする動作を想像するといい。両足に体重をかけられなければそんな真似はできないはずだ。税金で暴力を働く凶器を与えるなど言語道断だが、それがまかり通るのが福祉の世界なのだ。高齢者が起こす暴力事件は少なくない。特に認知症の人、もしくはすでに暴力行為の経歴のある人に杖を与えるのはくれぐれも慎重になるべきだろう。

杖の使い方は難しいと述べた。それはもっと正確に言うと杖の使える範囲が思った以上に限定されているとも言いかえられるのだ。円背が進み前傾姿勢が強い場合、どちらかと言えばシルバーカーの方が使いやすくお勧めしやすい。荷物にしかならない杖と違い、シルバーカーは疲れた時に座って休むことができるタイプのものもある。勿論溝などに要注意だがそれは杖も同じこと。杖よりもシルバーカーの方が用途が広く汎用性が高いのだ。

今回杖の有効性について疑問を呈した。言っておくが杖自体に問題はないし、全く役に立たないと言うわけではない。ただ単に有効な状況が限られていると言うだけなのだ。

エル・ドマドール

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