[266]犬食いのススメ?

2005年も押し迫り12月となってしまいました。来年は2006年は戌年なので、今日は犬にまつわるお題です。

ご飯の食べ方に「犬食い」という食べ方があります。「犬食い」はその名の通り犬のように椀をテーブルに置いたまま口をつけて直接食べる仕草をいいます。もちろんこれは行儀が悪い、とされる食べ方です。しかし今日はちょっと思考を転換して、この「犬食い」を敢えて勧めてみようというお話です。

行儀の悪い食べ方の「犬食い」をお勧めするなんて「週刊マナー美人」なのになんてこと言うんだ!と思われることでしょう。もちろんお椀が持てて、お箸が使えて、姿勢を正せる人が、こういう「犬食い」をしたら、みっともないしお行儀の悪いことと思います。

しかし世の中にはお椀のもてない人、箸が使えない人、姿勢を正せない人もいるのです。そういう人にとっては「犬食い」は食事をするための、生きるための命がけの手段であり、行儀が悪いとかマナー違反だとかは言ってられないのですね。

例えば高齢のおばあちゃん。握力も衰えスプーンしかもてません。背中も曲がってしまって姿勢を正すどころではありません。椅子に座っているのもやっとです。下手すれば椅子からずり落ちてしまう。そういうおばあちゃんにとって「犬食い」は正しい食事方法なのです。

ところが介護の現場では家族のみならず介護職員もリハビリと称して「犬食い」を止めさせようとします。高齢のおばあちゃんに、箸の持ち方やお椀を持って食べるようにさせることや姿勢を正すことに何の意味があるのでしょうか。

おばあちゃんは言われるままに箸を持ちお椀を持ち危険なスタイルで食事をすることを強いられるのです。その顔に笑みはありません。必死の形相です。そんなことよりも「お椀は危ないから持たなくていいですよ。好きなように食事をしてくださいね」と一言言ってあげれば、それだけでおばあちゃんは十分楽しく食事ができるのです。箸が持てなければ手づかみでもいいのです。要は十分な食事がとれればいい。

「犬食い」が必要な人はなにも高齢者に限ったことではありません。いわゆる身体障害者にとっても同様の「犬食い」が必要なシーンはたくさんあるのです。それをいちいちマナーが悪いとか行儀が悪いとか決め付ける社会はいただけません。

作法やマナーというのは伝統文化といえるものですが、いわゆる健常者を主体として育ってきたきらいがあります。そしてその底には作法ができる人とそうでない人を差別する意識も見え隠れします。現代社会においても作法やマナーは何が何でもそれを守らなければならないというような風潮があり、それが可能な健常者の裏で障害者が悲しい思いをしているとしたらそんな文化は即刻却下。誰もが楽しく過ごせるような新しい作法やマナーを作り出していく必要があります。

ということで、色々な事情があって「犬食い」しかできない人。遠慮することはありません。どんどん犬食いしてください。しかしそれにしても「犬食い」という言葉自体、響きがあまり良くありませんねぇ。なにかスマートな呼び方、ないでしょうか?