[215]乾杯と献杯

日本では乾杯は慶事のときに行なわれます。乾杯の音頭をとり、乾杯!と斉唱し、グラスをチーン!と合わせます。そして拍手をするのが一般的でしょう。

乾杯の起源は、その昔、神や死者を祭って神酒を飲んだという宗教的儀式に由来しています。慶事ではなく弔事が起源だったのですね。やがてそれが転じて乾杯は人々の健康や成功を祝福する儀礼に変化しました。グラスを合わせることについての紀元には諸説ありますが、主人と客とのグラスを同時に飲み干すことで毒が入っていないことを証明するのが有力な説だと思われます。

さて、日本では弔事のときの乾杯は献杯といって区別します。献杯というのは、乾杯は慶事の時に行なうものという誤解からなのですが、今ではそういうことになっていますので、弔辞のときは乾杯ではなく献杯と言ったほうが良いと思います。

献杯は、法事の会食のときに、坊様の説法の後に行ないます。杯を高く差し上げ「献杯」と言って杯を空けます。乾杯の時には拍手をしますが献杯の時には拍手はしません。ただし、坊様の説法が大変すばらしいときなどはそれ称えるために拍手をすることがありますが、稀です。

拍手をしないのはなぜでしょう?それは単純に弔事だからだと思われます。日本では拍手はお祝い事に使われてきました。弔辞はお祝い事ではありません。従って拍手はしないということが慣習になってきました。

しかし、ここでよく考えてみましょう。弔事は、死者の生前を称える行事です。死んだことは残念なことですが、故人をしのびその業績を称えるのも弔事の大事な仕事です。そう考えると、拍手をするのが一概に間違いとはいえないと思いませんか。

乾杯の起源が献杯であること。そしてそれは死者を称えることに始まっていると考えれば、むしろ拍手で送るというのが正しいかもしれません。