[125]立ち上げる

『わが社でもついにEコマースに向けて専用の自社サーバーを立ち上げることになった。自社サーバーともなればセキュリティの面、特にハッカーには十分に気をつけなければならない』

このような社内通達があったとします。突込み好きの揚げ足と取り名人は目をキラリと輝かせることでしょう。というのは正しくない表現が二つほど含まれているからです。

一つは「立ち上げる」です。

「立ち上げる」という言葉は、じつは文法的に間違っているのです。「立ち」は自動詞、「上げる」は他動詞。この2つが組み合わさるのはありえないというわけです。正しく言うならば「立て上げる」。しかし「立て上げる」なんて誰も使いません。この言葉は元々コンピュータ関連で使われていましたが、もはや世間ですっかり定着してしまい「立ち上げる」で十分通用します。つまり言語として流通しているわけです。

某新聞のコラムでこれをケシカランといったコラムニストに賛成意見が殺到したそうです。しかし、賛成したのはかなり年配のかたがた&カタブツだけでしょう。ケシカランという前に、新しく誕生した言葉の成り立ちを吟味することこそ大事だと思うのですが。

もう一つは「ハッカー」です。

「ハッカー」とは本来「コンピュータにとても詳しい人」の意味であり一種の尊敬語なのです。他人のコンピュータに侵入して悪事を働く人という意味はハッカーではなく「クラッカー」といいます。しかし、通常ハッカーといえばコンピュータに詳しく悪事を働く人のこととして、少なくとも日本では悪人として通用しています。

言葉は正しい意味で使うべきという主張があり、これはごもっともなのですが、そのためにコミュニケーションが中断してしまったり、嫌な気分になったりしたら本末転倒です。

メルマガを発行しているといろいろな方からメールをいただきます。しかし、そのなかにかなり多く突っ込み揚げ足取りメールがあるのも事実です。間違い指摘はありがたいですが、そういうメールに限って切り口上であり、本文の主旨に対する感想は皆無です。これでは寂しい。

前述の社内通達を該当部署で議論する時、どういう風にセキュリティを守っていくかが大きな課題となるはずです。そのときにハッカーの意味が違っているとか、立ち上げるは間違いである、なんて講釈していたら仕事になりませんよね。まぁ私自身もそういった人種であるので、自分で書いててじつは耳が痛かったりするのですが。