[080]やっぱりイヤだ。

今日は沢木まひろさんのコラムでお届けします。

■やっぱりイヤだ。

これは多分、単なる個人的な好みなんだと思う。全ては時代とともに変わっていくものなんだろうし、声を大にして訴えるようなことじゃないことは、よくわかっている。

でもね、どうしても気になるの。

初夏。美しく晴れた休日。ウインドウショッピングを楽しむうちにそろそろお昼どき。お腹が空いてきました。
よし、給料も出たことだし、ランチはちょっと豪華にフランス料理でも。うきうき気分でしゃれたビストロへ。出迎えてくれたカッコいいギャルソンがにっこりと言う。

「こんにちは!」

…単なる好みなんだと思う。
だけど私はどうしても、この「こんにちは」が馴染まない。

いつごろからだろうか。お店(特に飲食店)に入ると「こんにちは」(夜なら「こんばんは」)という挨拶を受けることが増えた。一応こっちはお客である。だからって高飛車になるつもりはないけれど、やっぱり「いらっしゃいませ」じゃないかい? いらっしゃいませ!凛と、そう挨拶されると、外に食事に来た! という、非日常的な、一種心地よい緊張感をおぼえるのは、私だけかしらん。

一度だけ勇気を出して訊ねてみたことがある、あるお店で。すると、「気軽な、家庭的な雰囲気を感じていただこうと思って、うちではこういうご挨拶をさせていただいてます」と、丁寧な返事が返ってきた。

「"いらっしゃいませ"だと、かたくるしいじゃないですか」
時代はフレンドリーなのであろう。どこの店が最初かわからないが、今や大抵の飲食店は「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは!」と、輝くばかりのスマイルで迎えてくれる。

「こんにちは!」

 …。

いや、だから個人的な好みなんだってば。
だけど。
そんなにかたくるしいかしら、「いらっしゃいませ」。

「こんにちは」の何が悪い、と突っ込まれると答えようがないのだ。しかし「こんにちは」と親しみをこめて出迎えてくれた店のウェイトレスが料理の内容を訊ねた途端にパニック状態になり、あたふた調理場へ引っ込んだりするのを見ると、「親しげもほどほどにしろ」と思ってしまう。家庭的を演出する前にまずプロ意識を叩き込んで
くれよと言いたくなる。

もちろん「こんにちは」で始まった店の全てがそうだってわけじゃない。私の勝手な違和感なんぞ一気に吹き飛ばしてくれるくらい、おいしい料理や素晴らしいもてなしで、夢心地にさせてくれたお店は沢山ある。別に挨拶を聞きに行ってるわけじゃないんだし、それでいいのだ。ただ、「フレンドリーに」ばかりが先行して、接客の基本を忘れてほしくないよな、と思うんである。

今回はあくまで(しつこい)個人的な好みの問題です。「こんにちは」に賛成の方も反対の方も、ご意見、ご感想お待ちしております。

沢木まひろ

沢木まひろの読み物
現代メロンパン考
読むドラマ
雑文の女王