[09]バイト

中絶したことをいつまでも悲しんでなんかいられなかった。
娘のインフルエンザの付き添いで2週間も病院で寝泊まりしちゃってたから。
その間会社は欠勤。日給月給だからその分引かれてしまう。
とうとう自転車操業でやりくりしていたのも出来なくなってしまった。

バイトしよう!そう思いながら会社の昼休みに買い物をしに外を歩いていたら、たまたま通りかかったラーメン屋の窓ガラスに「アルバイト募集」の貼り紙が。
見た瞬間にお店の中に入ってしまった。
そこには私と同年代位の男性が一人カウンターの中で立っていた。

「あの、アルバイトをしたいんですけど」と言ったら、
「あ、よかったぁ、今大学生の男の子が一人いるんだけどね、女性が欲しいと思ってたんだ」と言って、翌日から働ける事になった。
時間は18時から23時まで。時給は650円。安いけど仕方ないか。

当時は真ん中の娘が3歳4ヶ月。末娘が2歳。保育園に迎えに行って、夕食の支度をすれば、子供達をそのままにして出ていかなくてはならなかった。

2人が「ママ?、ママ?」と泣き叫ぶのを振り切ってドアを閉め、後ろ髪を引かれながらも自転車を漕いだ。
夫も夜勤ですぐ出かけてしまう。上の息子は小学1年生だった。子供達だけで約4時間を過ごすことになる。今思えばとても恐い事だ。
だけど、その時は何よりもお金を稼ぐ事しか考えられなかった。

アルバイトを終えて帰ると子供達は部屋で眠っていた。おむつを取り替えながら、「ごめんね、ごめんね」と謝る。乾いたうんちが付いてた時は涙がこぼれた。

それから2ヶ月もするとそのお店に大学生の女の子が入って交代制になった。
当然収入も減る。さらに4ヶ月後、私達は引っ越す事になった。
夫の祖母のはからいで市営住宅に入れる事になったのだ。バイト先のラーメン屋は遠くなってしまうので辞めざるを得なかった。

昼間の仕事を変えるしかないか…。会社を辞めようと思ってる事を会社の同期の人に話して理由も言ったら、その人が、前にパチンコ店の清掃のバイトをしたことがある、とそのパチンコ店を教えてくれた。

早速電話をしたら店舗を改装したばかりで清掃員を募集中とのこと。
その日の夜に面接して、そのまま仕事をすることになった。
時間は23時から24時30分まで。時給は1000円。
慣れるまでは眠かったけど、子供達が寝た後行けるし、収入も増えた。

どちらもせっぱ詰まってやったバイトだけど、やってみれば出来るもの。
支払が苦しくなる前に始めてれば良かったんだろうけどね。
子供もまだ小さかったから、考えられなかったんだろうと思う。

やろう!と思った時にアルバイト先がすぐに見つかったのはラッキーだったな。
支払は追い付いてなかったけど。
先が見えなくて、真っ暗なトンネルをひたすら歩いてるけだった。

時々バイトを終えて帰ると、何やってるんだろう、どうなるんだろう、支払は終わりがくるんだろうか、って惨めな気持ちと不安な気持ちが襲ってきて、誰もいない部屋で嗚咽してたっけ。

それでも支払っていけてたんだからまだよかった。
それからどうにもならなくなってきたんだもん。

山口ひとみ

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