[159]グッドデザイン賞大賞に見る「ものづくり日本」

先日ベトナム出張にご一緒させていただいた工業デザイナーの Y先生はグッドデザイン賞の審査員でもあり、先生のおすすめもあってグッドデザイン賞の大賞の選考会の見学に行って来ました。今年のグッドデザイン賞は 3,000点以上の応募があり、受賞した 1,158件から部門ごとに15件金賞が選出され、この中からまた大賞が選出される仕組みです。大賞の選出は審査員と全受賞者により公開の投票によって行なわれます。まずは上位 5点が選出され、次に 5点の中で再投票、その中で最大得票を得たものが次点より 100票以上の差があれば大賞の決まりです。

製品もあれば、コンテンツ、美術館、都市開発など広範囲の中からどれが大賞か、いわば今年の顔を選ぶというのはとても難しい事です。結果は、ダントツで世界一細い注射針となりました。この注射針は糖尿病患者がインスリンを注射するときに使うもので、痛みを感じないという特徴があります。

大賞をどれにするかということは審査員それぞれの究極の考え方、見方があると思いますが、私は「ものづくり日本」の真髄を見た思いがしました。まず、職人芸に支えられた高い技術力です。この注射針はTV番組でも取り上げられたのでご存知の方も多いでしょうが、開発に 5年、金属加工メーカー 100社以上に依頼してもできなかったという超難易度の商品です。最後に日本の町工場の代表選手 O社の社長が「みんなができなければ自分がやるしかない」と引き受け成功したものです。拡大鏡で見なければ見えない微細で一見シンプルな製品でありながら、その技術の高さや苦労を専門家でなくても多くの人が評価できるというのは「ものづくり」国家ならではの現象でしょう。

次に市場性があること、メーカー曰く「患者さんの願いが不可能を可能にした」と。メーカーが競争で新製品を作ってくれますが、「あってもなくても」という製品や「好き嫌い」の極端に分かれる製品もあります。日本だけでも糖尿病で自分で注射を打たなければならない患者は60万人いるそうですから、確実に市場があり、海外への市場開拓の余地もあります。医療用具ですから社会性もあります。注射器がまわし射ちをしていた時代からディスポーサブルの注射器にいつしか変わったように痛くない注射針が当たり前になる時代も遠くはないでしょう。そういう新しい基準を作るという意味でもこの製品の受賞は意義があると感じました。デザインという視点のみならず、日本が世界の中で「ものづくり日本」として生き残るには上記のようなポイントが求められており、まさに時代の鏡としての受賞だと感じました。

私自身は「機能性にすぐれたものはすべて美しいデザインである」という持論の持ち主です。確かに一般の注射針とは若干形状が違うのですが、この注射針がはたしてグッドデザインなのかと首をひねる私に知人でこの賞を主催する財団法人の理事が次のように答えてくれました。「渋好みの日本人がこの製品を選ぶだろうというのは想定内。デザインとは人の痛みをやわらげてくれるもの」。確かに良いデザインは人間に安らぎや楽しさを与えてくれるもので単なる主観的な評価ではなく、ものづくりや販売ということにいかに強く結びついているかを実感した 1日でした。

河口容子

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