[210]鬼子母神(きしもじん)

鬼子母神(きしもじん)はインドの神様で、自分には1000人もの子どもがありながら、他人の子どもを奪って食べる鬼神であった。それを見かねたお釈迦さまは、鬼子母神の子を隠してしまう。子供がいなくなったのを知って大変悲しむ鬼子母神に、お釈迦様は子を失う悲しみを教える話だ。改心した鬼子母神はその後、子を守る神になったといわれる。

他人の子は喰らうが、自分の子はかわいい。それが普通なのだが、自分の子に毒を盛り殺害して保険金をいただくという背筋が凍るような事件が発生した。

入院中の高校1年の長女に、薬物を混ぜたお茶を飲ませて殺そうとした疑いで、奈良市に住む43歳の母親が逮捕された。長女には3000万円の生命保険がかけられていたという。この母親にはほかにも子どもが2人いたが、長女と似た症状で亡くなっているという。つまり保険金殺人の常習犯。

ヒトの遺伝子情報には子を守るという強力な情報が組み込まれている。子供を無意識にかわいいと思う気持ち、捨て身ともいえる母親の行動は遺伝子情報として最初から組み込まれている。人体は遺伝子を未来に運ぶ乗り物といわれる。遺伝子にとっては子供は大事な未来への乗り物。したがって大事に育て上げるという情報が詰め込まれているはずなのだ。

こういった事件が発生するということは、逮捕された母親に子供を守るという情報が欠落していたと判断するしかない。しかし、もしかしたらそれさえも遺伝子の陰謀かもしれない。

遺伝子は優秀な乗り物だけを残そうとして、不要な乗り物は始末し始めたと考えることもできる。少子化もその表れと考えれば妙に納得できたりもする。いずれにしても、人類は淘汰され始めた、といえるのではないか?

しかし、やるせないのが助かった娘が母親をどう思うかだ。実の母親に殺されそうになったとなれば、一体誰を信じてこれから生きていけばいいのか?ふと、ブラックジャックに似たようなストーリーがあったのを思い出す。