[170]親族間の事件

事件が起こって捜査が入る。よく調べてみたら、犯人を母親がかくまっていた・・・なんて話はよくあること。この場合、その母親は犯人隠匿罪という罪に問われるが、親子の場合はその刑は軽減されたり免除されたりする。これは裁判において親族としての情を配慮するからである。「親子だからしかたない」というわけだ。

確かに親子であれば、犯人であってもかくまうだろうし、証拠などを故意に隠滅することは大いにありうる。というか、親子だったらそれが普通であろう。法律も意外と血が通っている。

親子の間での窃盗罪の場合。例えば息子が母親の財布から一万円失敬したような場合はまず罪に問われない。直系血族、配偶者、同居の親族の間では刑は免除される。ところが同じ親族でも、別居している兄の財布から失敬すれば、親族間であっても告訴されれば罪に問われることとなる。

逆に親族であるために刑が重くなる場合もある。直系尊属に対する傷害・殺人などは他人に対する同罪より刑が重くなっている。特に尊属殺人の罪は、死刑又は無期懲役だけとされている。もっともこの規定は不合理な差別を生むとして、最高裁判所は違憲の判断を下しているのだが。

実に親子関係は難しいのである。

2010.08.14追記
平成7年6月1日施行の刑法改正により、尊属殺人に関する規定は削除されています。平成7年の改正では、条文がカタカナのわかりにくい表現から口語文に変更されたほか、尊属殺人(200条)・尊属傷害致死(205条2項)尊属遺棄(218条2項)及び尊属逮捕監禁(220条2項)の規定が削除されました。この背景は最高裁の意見判決(昭和48年4月4日)のみならず、尊属であろうとなかろうと、人を殺したり捨てたりするのは同じように悪い行為であり、これらを区別するのはおかしいという国民の意識の変化を考慮したものです。