[716]フグ

フグで一番おいしいのはトラフグ。しかし食用に適するくらいに大きく成長したフグには猛毒があります。そのためにフグを扱うには免許が必要で、しかもこの免許取得はかなり難しく、東京か本場の下関でないと取れないとされています。ちなみに本場下関ではフグと濁らず「ふく」という。

フグ毒はテトロドトキシンといわれるものでこれは青酸カリの10倍もの威力を持った猛毒。一匹のトラフグで人間なら10人、マウスなら5万匹を死に追いやることができるとされます。

トラフグの場合、毒がある場所は肝臓、腸、卵巣でこれらは絶対に食べてはいけません。皮や白子、 肉など食べられる部分にも実は毒はあるのですが普通に食べる分には問題ない量なので心配無用。

テトロドトキシンはもともと海洋細菌に含まれ、それを巻き貝が食べて蓄積し、さらにそれをフグが食べて肝臓などに蓄えることが突き止められています。スベスベマンジュウガニという毒蟹もエサが同じなので毒を持つカニに成長したというわけです。

フグは養殖ものもあります。養殖フグはエサが異なるので毒がありません。しかし養殖フグに毒がないからといって調理してはいけません。今のところ養殖のフグを扱うにも免許は必要とされているのです。フグの種類によっては身にも毒があるものもあるので、素人判断で料理するのは危険だからやめましょう。魚屋さんで売られているものなら安心です。

フグは釣り人にとっては嫌われ者で、大きいトラフグが釣れれば儲けモノだがそういうことはまれです。大体を餌をとられるかその鋭い口で仕掛けを切られるかどちらか。釣れたとしても小さくて食べられない。船からのコマセ釣りでもその外道ぶりには手を焼くのです。

ところでフグの中でも猛毒があるのは卵巣ですが、この卵巣を調理した物騒な名物食品があります。石川県金沢市周辺や能登地方では「フクノコ」などと呼ばれるこの食品はなんとフグの卵巣の糠漬け。

フグの卵巣を1年くらい塩漬けにし、その後イワシの塩汁と麹を加え糠に漬け込んだもの。重石をおいて2年以上発酵させればできあがり。毒は塩漬けの段階で多くが卵巣外に流出し、残った毒は糠漬けの過程で乳酸菌や酵母によりほとんど分解されてしまうのです。毒があろうとなかろうと知恵と工夫で何でも食してしまう人間の貪欲さってすごい。

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