[706]仰げば尊し

卒業式のシーズンです。長年いそしんだ学び舎で各自万感の思いに浸る感慨深い時期でもあります。

卒業式の式次第といえば、在校生待ち受ける式場に、卒業生が入場。式が始まるとまずは国歌「君が代」斉唱。そして卒業証書授与と続きます。授与の間はビバルディの四季「春」がバックで流れることが多かったですね。授与が終わると学校長の式辞や来賓の祝辞が続き、このあたり一番退屈なときでもありました。

そして在校生の送辞と卒業生の答辞でそこここにすすり泣きが聞かれるようになり、卒業生の「仰げば尊し」斉唱、そして在校生が「蛍の光」を歌って退場する卒業生を見送る、というのが昔からある卒業式のパターンです。卒業式の歌といっても巣立つ側と送る側では歌が違うのは当たり前で、「仰げば尊し」を「蛍の光」で送るという、ここには卒業式ならではの伝統と美学があったものです。

しかし世の中移り変わり、「君が代」は「絶対君主天皇を崇める」名残りであるとして反対し「仰げば尊し」は「教師という身分を崇めるもの」として反対する動きにより、多くの国公立の学校で歌わなくなってしまいました。しかし最近では、昔ながらの良いところを復活させようということで、卒業式に「仰げば尊し」を歌う学校も増えてきたとのことです。

「仰げば尊し」は明治時代に小学唱歌を編集する際に、時の教育界の先駆者伊沢修二が唱歌として加えたものです。楽曲は作詞作曲者不詳のスコットランド民謡となっていますが、じつはこの伊沢修二が作ったのではないかとされています。

「仰げば尊し」が小学唱歌に編纂されたのは、時の国民教育に欠かせないとの判断からでしょう。そして時の国民教育とは大日本帝国主義であり軍事的侵略国家を正当化する教育でもありました。

そのような背景からすれば、確かに「仰げば尊し」はけしからん歌かもしれません。しかし、その歌詞に含まれる「師を尊敬する」意味と美しいメロディは理屈ぬきに卒業式の歌であり、旅立つ若者の感慨深い情緒のこめられた名曲であると思います。