[652]お燗

涼しくなって、美味しいものがたくさん出回る季節になりました。お酒がおいしく感じられる季節です。

お酒の燗は、昔は直燗といって直接火にかけて温めていました。今は電子レンジで簡単にお燗ができるので、湯煎してお燗することは少なくなってきました。しかし、電子レンジのお燗は熱くなりやすいきらいがあるので、できれば湯煎してお酒の特長に合わせたお燗の温度にこだわりたいところです。

さてこのお燗、100℃と0℃の「間」だから「かん」だとか、冷と熱の「間」だからなどの諸説があります。30℃前後の日向燗、36℃くらいの人肌燗、40℃前後のぬる燗、45℃前後の上燗、50℃前後の熱燗、55℃以上のとびきり燗と細かく分かれた燗の温度。それぞれの温度に意味があり、日本酒ならではの楽しみといえます。

お酒を暖めて飲むという習慣は世界でも日本と中国くらいで、あとはワインを暖めて飲むというのが極わずかに見られるくらいで、概して珍しい飲み方であります。日本で初めて「燗」を発明したのは、平安時代に嵯峨天皇に仕えた藤原冬嗣であるといわれています。記録によれば、嵯峨天皇が秋の狩りに出かけた際、にわかに冷え込んできたため随行の左大臣藤原冬嗣が酒を温めて献上したところ、大いに喜ばれたとされ、これが史上最初の燗酒ということになります。

ちなみに人の胃というのは、人肌になって初めて消化吸収されるので、温めた燗酒は健康にはいいといえます。逆に冷酒は飲みすぎても胃に溜まるだけで消化されず、温まる頃には大量に飲んでおり一気に回るということがありますので注意しましょう。

なお、燗によっておいしくなる酒を「燗上がり」、不味くなる酒を「燗下がり」というようです。

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