[560]変若水(おちみず)

2013年5月10日

前回ではお正月には「若水(わかみず)を汲む」という話をしました。若水は「変若水」ともいいます。これは「おちみず」と読みます。若水も変若水も不老不死の水で縁起の良い水とされます。2月の奈良東大寺二月堂で行なわれるお水取りも一種若水取りです。また「おちみず」といわれるのは、養老の滝に象徴されるように滝のように落ちている水という所以もあるようです。

沖縄の宮古島にはこんな伝説があります。

昔々、美しい宮古島に始めて人間が住むようになったときのこと。美しい心の持ち主であったお月様とお天道様は、人間にいつまでも変わらぬ美しさと長寿を授けてあげよう思いました。そしてアカリヤザガマを節祭の夜に呼び、2つの桶を渡しこういいました。

「この桶の1つには変若水もう一方の桶には死水が入っている。この変若水を人間に浴びせて長命を持たせなさい。そして蛇には死水を浴びせなさい」

アカリヤザガマは重たい2つの桶を持って節祭の夜に島へ使者として旅立ちました。

地上に降り立ったアカリヤザガマは天から長い旅をしてきたのでとても疲れてしまいました。そこで草むらで体を休めようとしていたところ、その隙に一匹の大蛇が現れて人間に浴びせるはずの変若水をジャブジャブ浴びてしまいました。

アカリヤザガマはたいそう驚いて「いやはや、これは困った。まさか蛇の浴び残しを人間に浴びせるわけにもいかないし。・・・こうなったら、仕方が無いから死水の方を人間に浴びせよう」と泣き泣き死水を人間に浴びせてしまったのです。

アカリヤザガマは天に帰り、ことの次第をお月様とお天道様に話しました。お月様とお天道様はたいそうお怒りになられ桶を担いで永久に立っていることを命じました。こうして今でもなお、お月様の中に桶を担いで罪の償いをしているアカリヤザガマが見えるということです。

人間は死水を浴びてしまったのでいつかは死んでいかなくてはならなくなりました。一方蛇は変若水を浴びた為、始終脱皮を繰り返し生まれ替わって長生きをするようになったのです。

お月様はその後もなんとか人間に不死を与えてあげようとしました。そして毎年節祭(せち)の夜に大空から若水を送るようになりました。それ以来人間は祭日の第一日の黎明に井戸より水を汲み、「若水」と呼んで珍重するようになったのです。

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