[556]聴覚

2013年5月10日

「百聞は一見にしかず」などといわれますが、これは100回聞くより1回見たほうが理解できるということわざ。ところが人間の感覚器官としての耳は、じつは目よりはるかに多い情報を収集できるのです。

目で捉えられる情報の範囲は前方に限られ、しかもそれほど広いものではありません。従って人間は後方からの情報の収集は多くは聴覚に頼っています。実際聴覚は後ろに対して驚くほど鋭い識別能力を持っているといわれます。

人間はたった二つの耳で様々な方向から来る音を聞き分ける能力があります。また片耳であっても慣れればかなり正確な音源位置の特定が可能です。これは永い経験から様々な方向や距離から来る音の特徴を脳が正確に記憶しているからです。

また映像を遠くに送る情報の提供は音に比べると大変手間がかかります。遠くのものは視覚的に捉えるのは限界がありますが、音は比較的遠くまで送ることができます。テレビよりラジオのほうが早くに発達したこともその例。

また時間を超えた情報の伝達も、過去の映像などは印刷・紙・写真に頼るしかありませんが、音による情報伝達は話すことによってそれが速度的に有利に可能です。

聴覚はまた言語能力にも大きく影響しています。かのへレンケラーが三重苦に悩まされたのは有名な事実ですが、視覚は別として、聴覚が欠落していると言語能力にも障害が出ます。これは人間の言語は自分の話すことを聴覚で確認しながら話すので、聴覚がないとどういう音声で話しているのか確認できず、したがってうまく言葉になりません。

よくテープに吹き込まれた自分の声が自分の声に聞こえないことがありますよね。これは自分の声は耳から入る音で聞いているのではなく、顔の骨からの振動で聞いているから、実際の声とは違って聞こえる、というわけです。

ということで物事100回見ても理解できないけれど、1回説明を受ければ理解できることもあり、聴覚は視覚に劣るということはないという話でした。

しかし、実際問題として、視覚と聴覚とどちらかとれ、といわれたら、やっぱり視覚でしょうね。耳が聞こえなくても何とかなると思いますが、目が見えないというのはやっぱり大変でしょうし。