[1213]マゴットセラピー

前回、糖尿病について触れました。糖尿病は血液中の糖が血管を痛め、四肢の末端に壊疽(えそ)を引き起こします。壊疽は細胞の死滅に原因がありますが、それを代謝する役目を負う血液が行き届かないため、壊疽を起こしますとそれが進まないように生きている部分(血液が行き届く部分)まで切り落とす必要があります。糖尿病で足を切断するというのはそういうことなのです。

しかし、足を切断するのは、大変なことです。できれば避けたい。

そこで、登場する新しい治療方法がマゴットセラピー。マゴットとはウジのことです。つまりハエの幼虫。使うハエは無菌で育てたヒロズキンバエという種類。特に珍しい種類ではなく、日本でも普通に見ることのできるハエです。

ウジは腐敗したタンパク質を食べる性質があるので、これを患部にあてて、壊死を起こした細胞を食べてもらおうという作戦です。ウジは正常な細胞は食べませんので、体がウジに食い尽くされるということはありません。

また、ウジは腐った部分を食べるときに特殊な酵素を出して分解しますが、この酵素は壊死をストップさせる効果もあるのです。つまり治療も同時にやってくれる。

あたらためて感心するのは、今まで嫌われ者だったウジがなんと最先端の医療より優れているということです。まさにこの世に無駄なものはない。どんなものでも「役に立つ」という自然の真理。

ところで、このマゴットセラピー。太平洋戦争中に介護にあたった人はちょっと複雑な気持ちかもしれません。というのは、戦地東南アジアで負傷した兵士の手当てでは「傷にたかったウジを取る」というのが大部分の仕事だったからです。当時は負傷兵に忌々しくたかるウジが、現代では治療に役立つ。時代が進んだということでしょうか。