[1216]天高く馬肥ゆる秋

9月に入ったばかりはまだ残暑が厳しく、しかしそれも9月下旬になると涼しさとともに湿度が下がり快適な気候となります。これが10月になると秋晴れで行楽にも良く、またおいしいものが並び食欲をそそる秋でもあります。

10月第二月曜日は体育の日となっていますが、これはもともと東京オリンピックの開会の日(10月10日)を記念したもの。10月10日は晴れの特異日で、一年でも天気の良いこの日をわざわざ選んだのです。(なのに体育の日を第二月曜日にしてしまうとは…)

さて、気候の良いこの季節を指して「天高く馬肥ゆる秋」といったりします。豊穣の秋あるいは食欲の秋を彷彿とさせるこの言葉ですが、じつはこの解釈、日本独自のものです。

もともと中国の故事である「天高く馬肥ゆる秋」は中国人にとって警戒の意味を表す言葉です。食欲とはまったく関係がありません。

秋は実りの秋。この時期になると中国では北のほうから匈奴(きょうど)と呼ばれる騎馬民族が収穫物を略奪するために攻めてきます。せっかく実った農産物を略奪されてはたまりません。そのためこの時期になると「天高く馬肥ゆる秋は北を良く見張って注意しよう」と皆で呼びかけあったのです。それが故事として残ったものと考えられています。

中国では特に北東方角を鬼門といって凶意を表すことに使いますが、これは敵が攻めてくる方向を注意警戒するためのもの。陸続きで広大な土地を持つ中国ではこういった災難に対して警戒することがとても重要。世界遺産にもなっている万里の長城も匈奴の侵入を防ぐためのものです。

攻めるほうの匈奴もすごい語句で呼ばれたものですが、彼らも厳しい寒さのため農作ができず、自民族を守るためには南方への略奪の道を選ばざるを得なかったのです。ちなみに、匈奴とはモンゴル一帯の遊牧民族を言いますが、差別用語のためモンゴル人や中国人の前では使わないようにしましょう。

「天高く馬肥ゆる秋」=「常に外敵の侵攻に対して警戒をする」という意味。

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