〔28〕恋愛考<捏造恋愛?後編>

そんな薔薇色の日々が数週間続いたある日、私は社内の友人から、彼に関する噂を耳にした。

「そうそう。しじみちゃん、川田さんて今卸商部の井上さんと今噂になっているらしいよ。真相はハッキリしないんだけどさ、どうやら相思相愛みたいで、よくみんなで飲みに行ってるみたい。女に優しいからねー。奴モテるんだよね」

ふうん、と思った。常に「気が小さい」と言いながら、おかしなもんだが、昔から私はこういう状況に際し「ライバル」が出現してもあまり慌てない。あくまでも「それはそれ、これはこれ」なのだ。

“恋愛”を勝ち負けで表現する人がいるが、恋愛は勝ち負けではない。美人がモテて、ブスがモテないというのは、あくまでも俗物的な見方であって、万人に当てはまるわけではない。

自分をかばうわけではないが、もしも彼が私でなく、彼女を選んだのだとしたら、それは彼女の魅力と彼の求めるものが一致しただけの話しだと思っている。私の持つ“恋愛論”というのはそのくらい簡潔だ。ことばで説明できない分、奥が深く、そして驚くほど浅はかなものだとも思っている。

そんな風に考えてる私を差し置き、社内の友人は攻撃を開始しはじめた。川田さんに卸商の井上さんをどう思ってるのかをメールで聞き、どういう関係で付きあっているのか、事細かく聴取しはじめた。

すると彼はこう答えたのだそうだ。「単に誘われたら飲みに行ったりしてるだけだよ。他の人だっているのに、井上さんだけ無視するわけにいかないだろう。ま、アイツはオマエの言う通り、よくいる女って感じだよな。ハッキリ言ってオレにとってはおよびでないよ」

そしてその瞬間、私は一気に目が覚めたのだ。

ははぁ。すごいな。ちょくちょく一緒に飲みに行ってたのに、そんな風に言ってのけちゃうなんて。だいたいオマエも男だろう。「よくあらば・・・」なんて気持ちの1つもあったんじゃないの?それをそこまで言えちゃうなんて。ずいぶんだね。

普通、好きだったら、こんなことくらいで、冷めない。逆に「ああ良かった。彼は井上さんのことをなんとも思ってないのね」なんて思い、そっと胸をなでおろすのかもしれない。

だが私はどういうわけだか井上さんの肩を持っていたのだ。井上さんだって、きっと彼のことが好きで毎日悶々としていただろう。誘うのだってきっとすごい勇気を振り絞っていたに違いない。純粋な恋心を無視して、影でそんなこと言うなんて。

そう、悲しいことに私はもしかすると自動的に“食欲”“睡眠欲”そして“性欲”のバランスを整えるために、「恋心そのもの」をねつ造していたのかもしれない。

ねつ造しないとヤバいくらい、最近の私は色々なことがあってへこんでたから。わけもなく夜眠れなくなったり、暴飲暴食しちゃってたりしてたから、きっと私の本能がそうさせたのかもしれない。精神的にちょっと危険な状態だったのかもしれないなぁ。

今年最後の恋が、もしかすると“ねつ造”だったなんて。ははは。あまりにマヌケというか、笑える話。でも余裕のない中で働いていると、時にそうしたマヌケな出来事が現実になることだってあるわけだ。

何もなかったのは残念だけど、これも1つの笑って話せる恋愛話にして、自分の宝物箱にしまっておこうっと。そして暇な時思い出して、うっとりしよう、となんだか静かに納得できた出来ごとだった。
2001.12.21

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です