2002年4月 記事一覧

〔46〕「いるもの」と「いらないもの」

自分で言うのもなんだが、私は人を見る目がある方だと思っている。人より少しだけ多く、企業を渡り歩いてきたからなのだろうか。信頼できる人とできない人の違いのようなものが第一印象からくるインスピレーションで、だいたいわかってしまう。

10年間働いてきて、行く場所行く場所で“大切な人”が必ず何人かできた。その“大切な人”は、私に生きていく上でのヒントを与えてくれ、たえず前を見て進むよう働きかけてくれているような気がする。

今の会社でも、こんな私と仲良くしてくれてた“大切な人”がいた。その人は花井さんといい、3月でめでたく定年退職を迎えた初老の男性だ。

花井さんは俗に言う「オヤジ」という言葉が全く似合わない、大人の雰囲気を持った、品のいい、でもちょっと子供のようなところのあるおちゃめな方だ。

彼はことあるごとに私を飲みに連れていってくれ、私と同じ目の高さで物を見、意見を言ってくれた。いつのまにか私達は、性別や年齢という壁を超えた「親友」になっていた気がする。

私は彼が大好きだった。何かに行き詰まった時に相談すると、必ず「しじみちゃんの思った通りにやった方がいいよ」とニッコリ笑って言ってくれる。それは私を心底安心させた。人をけなすようなことを言いながらも、その中に必ずあたたかさがあり、それは私だけでなく、他の人達をもホッとさせてくれていたのだと思う。

そんな彼に、先日の送迎会の席でどうしても聞きたかったことを聞いてみた。「花井さんはどうしていつもそんなに楽しそうにしてるんですか?どうすれば花井さんみたいに生きていけるのか教えて下さい」

すると花井さんは「え?」という表情をし、こう言った。「だた1つだけ。楽しくすることだよ。現代っ子はそれが解らないんだね」

「私もしじみちゃんくらいの頃は色々なことに悩んだよ。先のことだけでなく翌日のことでさえ。ここにずっといていいのか、夢を追って仕事を辞めてしまおうか。そして大きな悩みにぶつかる度に何か1つずつ捨ててきた。で、最後の最後に残ったのは“楽しく仕事をしよう”“楽しく生きていこう”とそれだけだった、ってわけだよ。でもそれが正解だったんだな」

花井さんはそう言ってゲラゲラ笑った。

私はちょっと意外な気がした。花井さんは人が生きていく上で大切なもの全てを身につけているように見えたからだ。

「何か」という部分には敢えて触れなかったが、それはたぶん人間の心の奥深い部分なんだろうな、と私は取ることにした。自尊心とか、虚栄心とか地位とか権力とか、たぶんそういったものではないか、と。

例えばそういう「何か」を“捨てよう”と思った時、その行為にはすごい決心と勇気がいる。私なんてその決心や勇気がなくて、いつも結局それができない。

「“捨てる”ことかぁ。私は、いつも何かを考えてばかりで、先に進むことができなくて、どこかで無理をしている気がするよ。」そんな風なことを言ったら、「いらないモノから捨てなさい」とキッパリ言われた。「楽しくなかったら、生きている意味、あるか?」と。

「いるもの」と「いらないもの」優柔不断な私は、全てが「いらないもの」という気もするし、でもやっぱり全てが「いるもの」という気もしてくる。

煩わしいな、と感じてることがあってもそれを捨てることはおろか、必死になって、それを落とさないように落とさないようにしている、それが私なんじゃないだろうか。
「いらないもの」の存在が見つかった時、勇気を出して捨て、それを繰り返し、最後の最後に残ったものが、もしかすると“私そのもの”なのかもしれない。

「あれ?しじみちゃん、そのデザート食べないの?だったらもらっちゃうよ」と楽しそうに私の顔をのぞき込んだ花井さんを見ながら、ふと嬉しくて、でもちょっと淋しいような気がして、しばし涙をこらえるのに必死になってしまった私なのであった。

2002.04.26

〔45〕教育係の苦悩

私がいたここ2年の間に、うちの会社は一気に派遣社員が増えた。正社員の女の子が辞める度に、その穴を派遣でふさいできたからだ。「今のうちの会社は派遣社員さん達の底力で成り立っているって言ってもいいくらいだよね」と前に誰かが言っていたが、本当にそうだ。

会社側は今後すべての派遣要員を“紹介予定派遣”で採用するという方針を固めたらしい。条件はたった1つ。「25歳以下で多少経験があればOK」とのこと。「おいおい、それでいいのかよ」と思わずちゃちゃをいれたくなるほど、非常にアバウトかつ漠然としたものだ。

よって、ふと気付けば女の子の平均年齢もぐんと下がり、2年前からいる私なんぞは、悲しいかな、正社員の“コツボネ”に間違えられることもあるわけだ。

私みたいに、何社もキャリアを積んできて「あれはおかしいと思います」「ここはこうしてください」なんて文句ばっかり言ってたらいやがられるのも当然なのかもしれないが、バブル全盛期にバリバリ仕事をこなし、鍛えられてきた30代の女性が採用の枠に入ってないというのはなんだかとても理不尽な気がする。やっぱり企業側ってのは若い女の子を採りたがるものなんだろうか。

そんなわけで、本題に入ろう。私の配属する部に25歳のAちゃんが入ってきた話しは先週したばかりだが、今回はこのAちゃんの話し。

約2週間ほど一緒に仕事をしてきて、色々な壁にぶつかる。まだ仕事そのものにはたいした支障は出ていないが、一言で言えば、とにかくまだ「子供」なのだ。

まずビックリさせられたのが、卓上カレンダーだ。彼女が帰った後、そこにはビッシリと何かが書きこまれていた。一体何が書いてあるのだろう、と覗き込むと“18時、渋谷”“19時、新宿”と自分の遊びの予定が書きこんであった。

卓上のものというのは、いつ何時、誰に見られるかわからない。仕事をする机の上に、プライベートの予定を書きこんでしまうというのは、普通ではちょっと考えられない行動だよな、と思ったが、入ったばかりの人にくどくどと説教をするのも気がひけるので、ちょっと様子を見ることにした。

その後「Aちゃんの歓迎会をしよう」と部全体で相談し、日にちを23日か24日でと設定した後、Aちゃんに確認を取ったことがあった。

「Aちゃん、Aちゃんの歓迎会をみんながやってくれるの。23日か24日どっちがいい?」と聞いたら、「あ、2日間とも予定が入っているのでダメでーす」とサラリと言われてしまった。

おいおい、予定が入っているのは仕方ないが、芸能人じゃあるまいし、どっちかキャンセルできるだろうが。しかも部がやってくれるAちゃんをメインとした会なんだよ、そんなぁ、即答しちゃうなんて。

そしてまたある時の午後、営業マン全員が一気に外出したとたん、彼女はいきなり私の顔を見ながら、こう言ったのだ。

「わーい。み~んな出かけた!ユックリできる~」しかも、更に驚いたのは、その時、彼女は“万歳”のポーズを取っていたということだ。

これには恐れ入った。突然のことにどうリアクションをしていいか、わからなかった私は、思わず、自分も「わーい」などと言い、一緒に万歳をしてしまったわけだが、それを別の女の子に言ったら、「しじみちゃん、それはしじみちゃんが注意してあげなくちゃいけないよ」と私が説教されてしまった。

このように、ちょっと調子抜けするような事が次々に起こるのだ。彼女の教育係りに任命されてしまった私にとって、これは由々しき事態だ。
派遣はある意味「その道のプロ」でなければならない。入ったその日から即戦力にならなければならない。プロとなるには、仕事そのものだけでなく、社会というもののルールを理解し、常識をわきまえなくてはならない。

つまりAちゃんにはそういった「プロ意識」というものが、ことごとく欠落しているらしいのだ。

“社会経験があるから”と考え、ただ単に仕事を教えればいい、と思っていた私は非常に甘かったのではないか。

今時の若い子はキャリアも薄いだろうし、苦労という苦労もしていないのかもしれない。もしかすると、私は思いきり「嫌な奴」になって、彼女に仕事を教えるだけでなく、社会教育までしてあげないといけないのかもしれないなぁ。

2002.04.19

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