〔51〕目標

前回の記事に関して読者の皆様からいくつかのお便りをいただきました。励ましのお手紙、お叱りのお手紙、色々ありましたが、全て心に響く内容であったと同時に「これじゃいけないな」と自分を振り返るきっかけもいただけたと思っています。この場を借りて、お礼申し上げます。ありがとうございました。

「辞めてやる!」事件から数週間が過ぎ、私はまた元の状態に戻された。“戻された”と言うより、とにかく「9月まではなんとしても頑張らねば」という意思のもと、「それ私が担当してた仕事だよね?」と自分の仕事を戻してもらうように働きかけた。

“周りの人が気を使っている”雰囲気を感じないわけではないが、そんなの知ったこっちゃない。私は上司に「いて欲しい」と言わせる程の実力の持ち主ななのだ。こんなことくらいで負けてられるか。悔いが残るのは嫌だ。あとは突き進むのみ、だ。私を落とし入れようとする人間がいるのだとしたら、片っ端からなぎ倒してやる。はは

そして、私がこんなに仕事に執着するのにはワケがある。4月から入ってきた新人のAちゃんにきちんと仕事を引き継ぎたいのだ。

“同僚”になって2カ月。最初のうちは「大丈夫かな?」などと思うこともあったものの、何度か2人で食事に出かけ、お互いの話しをするようになってからは彼女がすごくきちんとした考え方の持ち主であることがわかった。

またその反面、とてもまっすぐで純粋な心を持っているだけに、私の知らないところで、いくつかの悩みを抱えてしまっていたこともわかった。

ある時彼女はこう言った。「私、山口さんが辞めたら山口さんの仕事できるか心配です。とても不安なので、仕事は続けたいけど向こう1年は“逃げ場”を作るために派遣という立場でいたいんです」

彼女はネガティブな考えをするような人間ではない。だから“逃げ場”ということばはこの場合あっているのかどうかわからないが、うちの部は上司が何もせず、全て下っぱ任せで成り立っている。状況を見極める目がある賢い人間であれば「この状況で正社員になるのはちょっと・・」そう思ってもおかしくはない。

彼女は6カ月後に正社員になる予定で入社してきてるわけだから、私が入社した時よりも、周りの目が厳しいのは確かだ。「あれもやらせよう」「これもやらせよう」という雰囲気がありありとしている。

不安げにしているAちゃんに私は約束をした。「私の人生じゃないから口出しはできないけど、それもいいと思うよ。派遣としての期間をもう少し延ばしてみて、状況を見ながら、変えられるところは変えていけるようにしようよ。私がいる間は一緒に問題点をはじき出して、上の人に相談してもっとやりやすい部に変えよう」

私は企業を渡り歩いてきて、時に「社会で学ぶものなんて1つもない」などと思ったことすらある。

でも、残りの数ヶ月、何も目標を持たずにちんたらやっていくよりはマシだ。小さな目標でも、ないよりは断然いい。

私は2年間いたわけだが、正直「楽しく仕事をしている」という感覚がなかった。「私がいなくなった時、Aちゃんが誰に頼らなくても楽しく仕事ができる職場」にできたらと思う。

その目標が達成できた時、私はやっと「この会社で働いていたんだ」という現実感と充実感というものを手に入れることができる、そんな気がする。

2002.06.07