〔45〕教育係の苦悩

私がいたここ2年の間に、うちの会社は一気に派遣社員が増えた。正社員の女の子が辞める度に、その穴を派遣でふさいできたからだ。「今のうちの会社は派遣社員さん達の底力で成り立っているって言ってもいいくらいだよね」と前に誰かが言っていたが、本当にそうだ。

会社側は今後すべての派遣要員を“紹介予定派遣”で採用するという方針を固めたらしい。条件はたった1つ。「25歳以下で多少経験があればOK」とのこと。「おいおい、それでいいのかよ」と思わずちゃちゃをいれたくなるほど、非常にアバウトかつ漠然としたものだ。

よって、ふと気付けば女の子の平均年齢もぐんと下がり、2年前からいる私なんぞは、悲しいかな、正社員の“コツボネ”に間違えられることもあるわけだ。

私みたいに、何社もキャリアを積んできて「あれはおかしいと思います」「ここはこうしてください」なんて文句ばっかり言ってたらいやがられるのも当然なのかもしれないが、バブル全盛期にバリバリ仕事をこなし、鍛えられてきた30代の女性が採用の枠に入ってないというのはなんだかとても理不尽な気がする。やっぱり企業側ってのは若い女の子を採りたがるものなんだろうか。

そんなわけで、本題に入ろう。私の配属する部に25歳のAちゃんが入ってきた話しは先週したばかりだが、今回はこのAちゃんの話し。

約2週間ほど一緒に仕事をしてきて、色々な壁にぶつかる。まだ仕事そのものにはたいした支障は出ていないが、一言で言えば、とにかくまだ「子供」なのだ。

まずビックリさせられたのが、卓上カレンダーだ。彼女が帰った後、そこにはビッシリと何かが書きこまれていた。一体何が書いてあるのだろう、と覗き込むと“18時、渋谷”“19時、新宿”と自分の遊びの予定が書きこんであった。

卓上のものというのは、いつ何時、誰に見られるかわからない。仕事をする机の上に、プライベートの予定を書きこんでしまうというのは、普通ではちょっと考えられない行動だよな、と思ったが、入ったばかりの人にくどくどと説教をするのも気がひけるので、ちょっと様子を見ることにした。

その後「Aちゃんの歓迎会をしよう」と部全体で相談し、日にちを23日か24日でと設定した後、Aちゃんに確認を取ったことがあった。

「Aちゃん、Aちゃんの歓迎会をみんながやってくれるの。23日か24日どっちがいい?」と聞いたら、「あ、2日間とも予定が入っているのでダメでーす」とサラリと言われてしまった。

おいおい、予定が入っているのは仕方ないが、芸能人じゃあるまいし、どっちかキャンセルできるだろうが。しかも部がやってくれるAちゃんをメインとした会なんだよ、そんなぁ、即答しちゃうなんて。

そしてまたある時の午後、営業マン全員が一気に外出したとたん、彼女はいきなり私の顔を見ながら、こう言ったのだ。

「わーい。み~んな出かけた!ユックリできる~」しかも、更に驚いたのは、その時、彼女は“万歳”のポーズを取っていたということだ。

これには恐れ入った。突然のことにどうリアクションをしていいか、わからなかった私は、思わず、自分も「わーい」などと言い、一緒に万歳をしてしまったわけだが、それを別の女の子に言ったら、「しじみちゃん、それはしじみちゃんが注意してあげなくちゃいけないよ」と私が説教されてしまった。

このように、ちょっと調子抜けするような事が次々に起こるのだ。彼女の教育係りに任命されてしまった私にとって、これは由々しき事態だ。
派遣はある意味「その道のプロ」でなければならない。入ったその日から即戦力にならなければならない。プロとなるには、仕事そのものだけでなく、社会というもののルールを理解し、常識をわきまえなくてはならない。

つまりAちゃんにはそういった「プロ意識」というものが、ことごとく欠落しているらしいのだ。

“社会経験があるから”と考え、ただ単に仕事を教えればいい、と思っていた私は非常に甘かったのではないか。

今時の若い子はキャリアも薄いだろうし、苦労という苦労もしていないのかもしれない。もしかすると、私は思いきり「嫌な奴」になって、彼女に仕事を教えるだけでなく、社会教育までしてあげないといけないのかもしれないなぁ。

2002.04.19

〔43〕異業種交流会?

ある組織というものに属していると、それにどっぷり浸かってしまうことがある。それを楽と感じるか、苦と感じるかはその人次第だが、私はプライベートな時間まで組織に縛られていると気付くと、それがむしょうに嫌になってくる。

最近の私は、いつのまにか“会社の人達”とプライベートな時間を過ごすことが多くなってきていた。残業後、ご飯を食べに行く、休日に野球部の応援に行く、、、。何かにつけ、“会社の人達”が近くにいたのだ。

「なんだか最近パッとしないな。世界がだんだん小さくなっていきそう」

そう思っていた矢先、久し振りに合コンに誘われた。「みんな社会人なんだけど、若い男の子ちゃんばかりなの」「場所は新宿よ。高いビルのてっぺんにある、夜景の綺麗な飲み屋さん」社会人、若い男、新宿、夜景、てっぺん、、、その断片的なフレーズはなぜか私にノスタルジックで、かつ新鮮な気持ちを呼び起こし、急にうかれてきた私はその合コンに嬉々として出向くことになったのだ。

結果から話すと、それは非常に実のある合コンだった。相手の男の子は24~27歳くらい。カッコいい悪いは別として、全員お喋り好きの好青年という感触で、非常に面白かった。

会社の人達とご飯を食べ、休日にも会い、話す内容といえば、誰かの悪口か会社そのものの不満、また仕事の話し、そんなものにどっぷりつかっていた私にとって、彼ら若い男の子の話しは、ただただ聞いているだけで面白かったというわけだ。

その中でこんな話しが出た。「オレ働いて初めて気付いたんだけどさ、社会って出会いないよね?」「だよなー。いいこと考えた。今ここにいる仲間だけで、社会人サークルみたいなの作らない?みんなそれぞれ違う会社にいるわけだし、カッコよく言っちゃえば“異業種交流会”みたいな。社会の動向を知りながら、そこで出会いも探せるみたいな会!年齢には上限なしで。」

この思ってもみなかった発案には、私達女グループも盛りあがり、まさに仮想現実の世界と言わんばかり、「じゃ、ここをこうしよう」「あそこをああしよう」と後半からは一気に盛りあがったわけだ。

気付けばこの合コン、特にカップリングになる人など存在せず、いやらしい空気すら微塵も漂わず、その変わりに異様な盛りあがり方をみせ、「じゃ、またね~」で爽やかにおひらきになった。

帰りがけ、「いや、若い男の子ちゃんってパワーがあっていいね」なんてばぁさんみたいなことを言いながら、この“異業種交流会企画”はその場だけのものだろう、と私達女グループの誰もが感じていた。

しかし、これが違っていた。

なんと2日後にはもう「青山の某クラブを貸し切り、そこでまず第一弾として一大イベントを開こうと思う」というメールが私達女全員に入ってきたのだ。

“クラブを4時間借りるから、そこで30万として、フライヤー作りが約2万、簡単に計算すれば200人集めて1人から2000円取ればもと取れるよね”という大雑把ではあるが、わかりやすい計算も出来あがっていた。

素晴らしい行動力。

それはとんとん拍子に進み、私達は「第1期同志仲間(?)」として、そのイベントで活躍してしまったわけだが、これがまた意外な盛りあがりをみせ、面白かった。

これってなんだろう。“男女のいやらしさ”という枠からちょっとハズれた、同志団体?とでも言えばいいのかな。

会社がらみの疲れた生活を送り、「これからどうすればいいんだろう」などとただ、周りに流されていた私。それに思いがけない新風を送り込んでくれた“同志達”。

これからもイベント絡みのいいお付き合いが続いて行きそうだ。

2002.04.05