[91]空

第91回

■空

昔は空気が綺麗でしたねぇ。朝起きると空気がヒンヤリと摺るんです。そして太陽が昇って来ると、輝いて見えるんです。休みの日でお天気が良い日は、ハシゴを掛けて自分の布団を屋根に持ち込み、ゴザの上に布団を敷いて、その上に大の字になって空を眺めるのです。この頃は「紺碧の青空」は見えませんね。寝転がってその青空を見上げるとき、澄み切った空は凄く神秘的に見えました。何処までも遠く、深く、・・あの先には別の宇宙があるんだな・・などと考えると、いつまでも、いつまでも本当に飽きません。

そこに大きな「雲」が現れますが、太陽を遮る「雲」ではなく紺碧の青空にポッカリと浮かんだ「真っ白な雲」。本当に美しいのです。太陽の光を浴びた真っ白な雲は、殆ど動きません。モクモクと直ぐ側にあるような錯覚を起こします。あの雲に乗ったら下界はどう見えるのかなぁ・・なんて思ったりします。天気の良いときは、休みの日には何時もこうして屋根に昇って幻想的な世界に入るのが好きでした。

時々その青空にゆっくりと飛んでいる陸軍のオレンジ色した複葉機の練習機が飛んでいます。僕らはこれを「アカトンボ」と呼んでいました。本当にゆっくりなんです。いつまでも同じ所を飛んでいる感じで、なかなか進みません。のんびりとした風景です。

下に降りると現実の世界が待っています。夕方になると此の布団を降ろしに又屋根に昇ります。

チラホラ星が瞬きます。太陽が隠れて暗くなると、又夜の幻想的な星空を見ることが出来ました。一番目に入るのは「オリオン星座」です。真ん中に星が三つ並んで、その周辺に四つの星が恰も鼓のような格好で見えます。此の星達は地球から見れば平面に見えますが、実際には此の七つの星は距離がそれぞれ違うらしいですね。

地平線上に近いところに「カシオペア座」が見えます。これはWの字ですね。ですけど此の時代は満天星だらけです。一面に降るような星の数です。透き通った空に星が輝くのです。怖いような感じです。現代は晴れた夜空でも星はあまり見えませんね。目をこらせば微かに見える程度です。情けないですね。

渋谷駅の側にプラネタリウムがあって、見に行った事がありましたが自然の天空の星を眺めるのとは趣が違いますね。

又、此の澄んだ空に浮かんだ十五夜の月は、何とも云えない風情がありました。夜になると騒音が全くありません。野原のススキがお出でお出でをしている静かな夜に、まん丸のお月さんが顔を出すとき、その神秘的な姿に感動しました。
あの月のウサギに見える影は何だろうな?と,しばらくは呆然と見ていました。野口雨情の「十五夜お月さん」が思い出されます。

♪ 十五夜お月さん 御機嫌さん
婆やは  お暇とりました  ♪