[116]江戸しぐさ

小雨降る浅草寺あたりを歩いていると、たまに芸者さんに遭遇することがあります。さすがに蛇の目傘はさしておらず、普通の傘をさしていますがどことなくサマになっている。参拝客の多い境内では傘をさして歩くのは難儀です。人とぶつかりそうになる。そんなとき何気ない「傘かしげ」を芸者さんに見ることができます。

「傘かしげ」とは、雨の日に人と人がようやくすれ違えるような狭い路地を歩いていて向こうから同じように人が来た時に、すれ違いざまにお互いの傘を外側に傾け、まるで申し合わせたかのようにぶつからずにすれ違うしぐさです。絶妙のタイミングで傾けるのでお互い雨にぬれることもありません。粋でしょう?

腰浮かしというのもあります。江戸時代の渡し舟(多分矢切の渡し)は大変混雑した。狭い船ですから人を押しのけ船の奥のほうに行くことはできません。船ですから立っているのも危険。そこで、座っている人は順番に腰を浮かし拳一個分つめてなんとか一人分の席を空け、譲り合ったのです。

下町の路地は本当に狭い。雨の日でなくても向こうから人が来るとすれ違えないところもあります。そういうときは出る人を待ってから、路地に入ったものです。やっとすれ違えるところでは、すれ違いざまに肩を引きますね。

肩ひき、腰うかし、傘かしげ・・・これらは「江戸しぐさ」と呼ばれ、江戸町民のマナー、つまりお互いが社会生活をおくる上での知恵でありルールでもあったのです。現代社会では歩く時もいろいろなことを考え、あるいはぼんやり歩くことも多いですが、少し江戸庶民を見習って粋に振舞いたいものです。

先日人身事故現場に遭遇しました。横断歩道のある交差点での事故ですが、横断歩道が少し奥まっていたため左折車が気がつかず横断者をはねてしまったのです。悪いのはクルマの方ですが、横断者は携帯電話で話しながら歩いていました。5mくらいはね飛ばされ頭を強く打って痙攣してましたから助かってもタダじゃすまないでしょう。

歩くときには何があるかわからないと自覚し、携帯電話を使っていなかったらクルマをよけることができたかもしれません。皆さんも自分の身を守り、他人に迷惑をかけずに街中で振舞うということを、江戸しぐさに学んでみてはいかがでしょう?