[105]フルーツ缶

病院へお見舞いに行く場合の手土産の定番といえば生花です。いただいたほうも病室に潤いが出て嬉しいものです。しかし、生花を選ぶ時には気をつけなければならない点がいくつかあります。

たとえばユリなどの匂いの強いものは刺激が強いので避けましょう。またすぐ枯れてしまうような花も困ります。花言葉にも気をつけます。アネモネは「病気・忍耐」を表しますし、清楚なマーガレットも「悲しみ・忍耐」を表す花です。生花を買うときに心配なのが「病室に花瓶があったかな?」ということです。心配ならば花瓶が不要のアレンジメントにするとよいでしょう。

椿の花を贈る人はいないと思いますが、椿は「首が落ちる」花として縁起が悪い花とされています。長く楽しめるからといって鉢物もご法度です。鉢物は根付く=寝付くを連想するといわれるからです。ただ、前述の様に「花瓶」の心配があり、病人が特に好きならば「鉢物」も可だと思います。小ぶりの観葉植物など気が利いているかもしれませんし、病院内の花屋さんで鉢物を売っている場合もありますので。

ただ、あまり親しくない場合や、会社関係のお見舞いの場合はこのようなものは避けたほうが無難でしょう。気にするほどのことではないと思うかもしれませんが、病気の時は健康な時と違って精神も参っています。つまらぬ気を使わせるようなものは控えましょうということです。

さて、昔はお見舞品には果物をよく遣ったものです。理由は滋養強壮のため。果物は高級品であり、また栄養豊富なものでもあったのです。とくに季節のメロンやマスカットなどは病気をしてお見舞い品としてもらわないとめったに口に入るものではありませんでした。

もっとも果物は同時に傷みやすく、別に来たのお見舞の人に振舞ってしまって病人の口には入らなかったりするのですが。

そこで登場するのがフルーツ缶です。果物の皮をむいてシロップ漬けにした缶詰は今ではあまり人気がありませんが、明治~昭和初期にかけてはまたとないご馳走なのでした。なにしろ「甘い」ものが不足していた時代ですから「甘い」というだけでご馳走なのです。

滋養強壮に役立つフルーツを缶詰にして日持ちを良くしたフルーツ缶はお見舞にはもってこいの製品となったというわけです。

今は当時ほど甘くはなくなっていますが、それでもフルーツ缶は甘い食品の代表格でしょう。缶みかん、白桃缶、パイン缶、洋ナシ缶など、缶詰ならではの味わいもあります。

ちなみに、フルーツ缶の仕掛け人は多分「国分(株)」だと思います。K&Kでおなじみの総合食品卸売りの老舗です。味の素やカルピスを全国に広めた立役者でもあります。