[196]読者Q&A『勤務中に起こした事故の賠償責任』

■読者からの質問

私はピザの宅配のアルバイトをしているんですが、最近宅配中に車との接触事故を起こしてしまいました。

そこでこのとき働いている会社の社員さんやアルバイトの先輩からは事故の修理にかかったお金は払わなくていいと言われました。

しかし、後になって店長から言われたのですが保険が免責3万円のやつだから3万円払ってくれと言ってきました。

このことはアルバイトの先輩は全く知らず自分がアルバイトを始めるときの契約書類にもこのことは全く書かれていませんでした。

店長はアルバイトには口で言っただけだがちゃんとみんなに知らせていると言っているんですが、この場合私はお金を払わなければいけないのでしょうか?

たまごやさんの意見聞かせてください。
よろしくお願いします。

■たまごやの回答

お便りありがとうございます。例によってアバウトに答えさせていただきます。行動を起こす時には関係省庁の窓口にてご確認ください。

就業規則の中に決めなくてはいけない項目として「制裁」があります。これは服務規律違反があった場合の処置を事前に決めておくものです。重大な規律違反があった場合には減給や懲戒解雇などの罰が下るわけです。

さて、今回の質問のように、勤務中の事故過失よって会社に損害を与えた場合はどうなるのかというと、これは服務規律違反ではなく、会社に対する損害賠償ですから、就業規則に記述する必要も無く、その損害について会社に弁償しなければなりません。制裁は企業秩序違反に対する組織の制裁であり、会社が受けた損害を填補するものではないからです。労働者が故意または過失により会社に損害を与えた場合、会社に対し、債務不履行または不法行為による損害賠償責任があります。(民法415条、709条)

弁償額が5万円であるものに対して、減給の制裁限度がたとえば3万円であった場合に「3万円でいい」とはなりません。むしろ、重大な過失による損害の場合は懲戒解雇の上、実害額たとえば1000万円、ということもありえるのです。

ただし業務上起こった事故過失について、労働者に一方的に責任を負わせることは公平とはいえないため、判例では労働者への責任制限を設けているようです。

【判例】

「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から【信義則上相当と認められる限度において】被用者に対し右損害の賠償又は求償を請求することができるものと解すべきである」(最判昭51.7.8)。

つまり労働者の過失を100%とすることなく、その状況をよく吟味して【信義則上相当と認められる限度において】請求すべしとしています。

なお、労働契約の際に身元保証をとられた場合、本人に賠償能力がない場合は当然身元保証人に請求されますが、その場合も同様の【信義則上相当と認められる限度において】請求すべきものとされます。

本例の場合は、会社から損害賠償の免責額3万円を請求された場合は、それを拒否することはできないと思いますが、減額するなどの交渉は可能と思います。ピザ屋のバイトの場合、宅配が主業務であり、その業務を行ううえでの事故発生率はきわめて高く、会社はそれについて配慮する必要があるからです。

なお、労働基準法では労働契約の際に債務不履行の場合についての事細かな賠償金額を予定することは労働者の負担になるため禁止しています。あわせてこちらも参考にしてください。

賠償予定の禁止